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2008年3月 5日

[漫画]医龍(16) ただの人間としての医師 医龍(16) ただの人間としての医師

□医龍 16―Team Medical Dragon (16) (ビッグコミックス)

人間にはまだ、(諸説はあるとしても)命が何なのか分かりません。脳の仕組みもよく分からないし、風邪すら根治できないのが現代医療の現実です。風邪について現在行われている医療は、あくまでも本人の体力と免疫を助けることだけ。所詮抗生物質なんて、敵の数を減らすことしかできないのです。しかもこの敵は、抗生物質への耐性を、ちゃくちゃくと獲得しつつあるのです。近い将来、抗生物質が無力化される可能性すら指摘されています。

そんな頼りない医療を、普通の人間である現場の医師は支えています。中には情けない人もいるでしょう。素晴らしい先生がいる一方で間違った人もいるでしょう。他の普通の職業と同じです。

……医療ドラマは数々ありますが、大抵はとんでもない天才が現れて、全部解決しておしまいになります。いわば遠山の金さんです。とんでもなく偉い人が現れて、みんな平伏して終わり。

医龍も最初はそういう話でした。

でも、そんな話では現代医療は救えません。だって現場に立っている医師のほとんどは、凡人なんです。普通の人間なんです。ミスもするし、動揺もする。上司がいて、同僚と部下がいる。そういう周囲との関係の中で働いていかないといけない。それに守るべき家族もいますから、リスクをとって危ない橋を渡るわけにはいかない。そんな普通の縦社会に生きる、普通の現代人なのです。

最近の医龍は、特にこういう医師の良くも悪くもの『普通さ』を上手く描いているなあと感じます。台詞まわしに、患者の前では決して言えない医師を職業として選んだ人間の本音がにじんでいます。
特に伊集院が成長を見せ、霧島軍司が『目覚め』てからは面白い。ただの人間の集団である医療業界の姿を垣間見ることができます。

競争原理を導入して、弱い医師を全部淘汰した後、果たして医療は成り立つのでしょうか。天才の数なんて限られています。医師が天才にしか務まらない仕事になってしまったら、間違いなく医療費は跳ね上がることでしょう。世界でも珍しい国民皆保険制度は崩壊し、アメリカ並みに初診でかかるだけで300ドルなんて世界になるかもしれません。そして今以上に医師が足りなくなり、救急対応なんて不可能になるかもしれません。……他の産業と同じく、たくさんの凡人がいないと、医業なんて成り立たないのです。

一握りの天才医師と、その周りのただの人間であるたくさんの医師たちの群像劇。
特に近刊の医龍はすごく面白いと思います。

医龍 16―Team Medical Dragon (16) (ビッグコミックス)医龍 16―Team Medical Dragon (16) (ビッグコミックス)
乃木坂 太郎 永井 明

小学館 2008-02
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投稿者 文月そら : 00:02 | コメント (0) | トラックバック