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2006年9月20日

[KanonSS]初秋・夕闇・屋上で 初秋・夕闇・屋上で

牛丼さんがへどほん美汐さん絵を描いてくれたので、SSをつけてみました。物凄く久しぶりのKanonSSで、なんだか感慨深かったです。何故だかやけに暗くなってしまったんですが、よろしければどうぞ。

 暗く重いドアをあけると、眼前に空が広がった。
 吹き抜ける秋風に乗って、遠くに運動部の掛け声が聞こえる。
「天野、ここにいたのか」
 尋ね人はフェンスに寄りかかってヘッドホンで音楽を聴きながら、ぼんやりと夕闇迫る空を見上げていた。
「……天野?」
 まだこちらに気づかぬ様子の彼女。目の前で手をひらひらさせると、ようやく瞳に焦点が宿った。
「…………あ。相沢さん」

へどほん美汐

 天野はヘッドホンを外して、軽く頭を揺らす。ヘッドホンに抑えられていた彼女の特徴的な髪が、ふわりとあるべき位置におさまった。
「何を聴いていたんだ?」
「昔良く聴いていた曲です」
 昔、という言葉に少しひっかかった。
「ずっと聴いていなかったのか?」
「はい」
 頷いて、天野は小さなため息をついてから、言葉を継いだ、
「音楽は、昔を思い出しますから」
「……そうか」
「はい」
「……」
「……」
 見上げると、さっきまで紅く焼けていた空が、何時の間にか紺色に染まっていた。
「寒くなってきたし、そろそろ帰ろうぜ」
 校舎に向かって歩き出そうとした俺の背に、天野がぽつりと呟いた。
「……でも、聴けるようになったみたいなんです」
 ぴたり、と俺の足が止まった。
「空を見上げて、ぼんやりとあの子のことを考えていたんです。そうしたら、今までは、いつも最後のことしか思い出せなかったのに、楽しかった想い出が湧き上がってきたんです。それで、今なら大丈夫かなって思って」
 振り向くと、目の前に天野がいた。
「聴いてみたら、やっぱり大丈夫だったんです。なんでだろうって思って。
 ――そうしたら、相沢さんが来ました」
 瞳が、ほんの少しだけ笑っていた。
「そうか」
「はい」

「……帰ろうか」
「……はい」

 ばたん。
 重い扉を閉める。

 手を伸ばせばいつでも届く。振り向かなくても確かにそこにいるのが分かる。そんな距離を保ちながら、俺たちは暗い階段を降りていく。

 真っ直ぐ前を向いて。

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投稿者 文月そら : 01:54 | コメント (0) | トラックバック