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2006年12月18日
■[KanonSS]「黒い雨/紅い夜」
小川をはさんで、向かいに豪邸を臨む丘の上の小さな林。
茂みに身を伏せて、美汐はじっと、時が満ちるのを待っていた。
田舎道に不似合いなロールスロイスが、幾台も幾台も重厚な西洋屋敷の巨大な白壁に吸い込まれていったのが、かれこれ3時間前。
……3年前、あの子を失った痛みを、ようやく乗り越えかけた頃。彼女を迎えてくれた優しい人たちがいた。
そんな人たちを、彼女の故郷を、ただ汚職と自らの失策の隠蔽のためだけに、火事を装って焼き尽くした連中。……奴らは、中で盛大に忘年会を開いているはずだった。
――時間的に見て、宴はそろそろ終わりに近づいているはず。
――来るべき人間は全員そろい、酒も充分に入って、油断しきっている時間帯。……ついに、待ち続けた時が到来したと、美汐は感じた。
彼女は携行してきた大きなバッグを開くと、かちりかちりと、凶暴なシルエットを組み上げていく。
……忘年会? 冗談じゃない。
美汐は砲身にロケット弾をセットすると、身を隠してくれていた茂みから一挙動で立ち上がる。
バサバサバサッ!
殺気を感じてか、無数のカラスが闇に沈む木々の間から飛び立ち騒いだ。
舞い落ちる黒い羽。まるで漆黒の雨のよう。
「――忘れさせません」
カチ。
――バズーン!!
引き金を引くと、後頭部を思いっきり殴られたような衝撃が襲ってきた。足をかけていた背の低い木が、ばきばきと崩れ折れる。おかげで体勢が前につんのめってしまったが、別に良い。バズーカに精密射撃は必要ない。
解き放たれたロケット弾は夜空に薄く煙を引きながら堅牢な外壁を飛び越え、屋敷をあっけなくぶち抜く。
ズズーーーン!!
腹の底に堪える重低音と地響き。
崩壊は連鎖し、更に奥では火の手も上がったようだ。
――派手ではあるが、この程度、奴らにとっては見た目ほどのダメージはないはず。あくまでこれは最初の警告にすぎない。それより今は急いでバックアップの仲間に合流し、撤退しなくてはならない。美汐は眼を瞑ってもできるまでに馴染んだ手順をなぞり、手早くその凶暴な筒を片付けると、身を低くし、飛ぶようにその場を離れる。
奴らの、そして彼女自身の破滅の始まりを告げる狼煙を背負って。
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投稿者 文月そら : 22:31 | コメント (5) | トラックバック
■[KanonSS]あとがきというか。
牛丼さんが「バズーカ・ゴスロリ美汐さん」という世にも素晴らしい絵を描いてくれたので、きゃっほうと喜んでいたんですが、牛丼さんは「コレにSSをつけれ」とおっしゃったのです。ひい。
なんともNoFutureな感じですが、美汐さんの明日はどっちだ。
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投稿者 文月そら : 22:24 | コメント (1) | トラックバック