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2009年1月17日

[雑記]魔法の笛と銀のすずのね 魔法の笛と銀のすずのね

 私はサイト暦だけはだらだらと長く、ここの前身である旧サイト、その前のさるさる日記サイト、更にその前の演劇ファンサイトまで、十数年はさかのぼることができる。
 そのどの時点でも、大したポジションを占めていたわけではない。でも、私はここに居続けている。私は結局、常に傍観者なのかもしれない。

魔法の笛と銀のすず

 最近『かつてエロゲ論壇というものがあった』という話の流れの中で、しのぶさんの名前もあがっているようだ。しのぶさんのことは、あの当時ここらへんでサイトをやっていた人間にとってはトラウマのようになっていて、私も同時期に起こったもう一つの事件とともに、今も心にひっかかっている。
 しのぶさんについて、私より親しかった人も、私より理解していた人も、沢山いらっしゃるのは知っている。でも、もし今しのぶさんについて口火を切るのに適切な人間という意味でなら、もしかすると私のような傍観者なのかもしれないと感じて、筆を執った。

 しのぶさんは祈りのような文章を書く方で、作品の感想においてそれは特に顕著だった。検索を通じて初めて辿り着いた時はおどろいた。そこには、えろげの感想を書いていることへの照れも言い訳も予防線も微塵もなく、祈るような賛美だけがあった。
 リンク先をたどってみると、そういう人は大勢いるようだった。MK2さんやONE卒などの人たちのことを知ったのはそこからだった。
 そうした様々な『本気』の文章に触れる中でも、しのぶさんの存在はやっぱり異質だった。しのぶさんのような文章を書いてみたいと思ったこともあるのだけど、まず筆力が全く及ばないのはさておき、何より心構えが違いすぎるような気がした。
 私には、あそこまで真摯にあちらの世界を見詰め続けることはできない。

 その後、色々あって何度かお目にかかり、親しくお話しする機会があった。私と同じコンプレックスをお持ちだと知って、親近感を得たのを覚えている。

 『ネットは星空のようなもので、近く見えても、実は互いに絶望的な空間的断絶を隔てているのだ』という話をしたことがあった。しのぶさんから『断絶しているところがいいんですよ』という趣旨の返信をいただいた。当時はしのぶさんに返事がもらえることそのものが嬉しかったので深く考えなかったのだが、今は考えずにはいられない。我々の無力さについて。

 しばらく更新が止まり、亡くなったという話を聞いた時は本当に驚いた。後から聞いた話を総合してみると、もしかすると最後にメールのやりとりをしたのは私だったのかもしれない。数ヵ月後の新作発売楽しみですねという内容だった。
 そのゲームは結局、買わなかった。

 しのぶさんは本当にいつも祈っていたのだと思う。私は、神様のいない世界の敬虔な司祭のような人だと思っていた。神なき世界を司祭は去った。そんな感じがした。
 でも本当のところは何も分からない。私が知っていたしのぶさんは、web上のしのぶさんだけだ。

 星は輝きを失えば夜空から永遠に消えてしまう。でも今もあなたのサイトは消えていない。それを、あなたが望むかどうかは分からないけど、いや、きっと望まないような気がするけど、あなたの言葉が今もそこにちゃんと残っていることは、ありがたい。

『しのぶさん、そっちはどんな感じですか?』
 そう話しかけることができそうな気がするから。

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投稿者 文月そら : 00:34 | コメント (0) | トラックバック