2011年11月15日

[感想書籍]『神様のメモ帳8』杉井光『神様のメモ帳8』杉井光

 いやね、もう続き読むのやめようと思ってたんですよ。
 ちょっと彩夏放置が酷すぎないかと。

 まあ、変に事件に関わらせると、記憶が戻って大変なことになりかねないというのは分かるんですけど、それにしたって彩夏があまりにも蚊帳の外すぎる。むしろメオとかのほうが目立つ有様。話そのものは面白いんですけど、なんか読んでて辛くなってきたので、7巻を読み終わったところでもう8巻を買うのはやめようと。

 ところが書店で一応手にとって、折り返しを見てみたら……おいおい、彩夏かかわっとるやん……。

 帰ってきた悪夢との対決。
 そしてラストの4人で迎えた大団円。

 もう何よりも、これからは彩夏がハブられなさそうだというのが一番嬉しい第八巻でございました。まあ、彩夏も、全てを取り戻したわけじゃないにせよ。

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投稿者 文月そら : 21:55 | コメント (0) | トラックバック

2011年11月14日

[感想書籍]『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月

 書籍の感想には、書影やらアマゾンリンクやらをはるようにしてたんですけど、結局そういう手間があるもんだからよけいに更新しなくなるんだとわかったので、今後は字だけで、もっと気軽に感想書いてみようと思いました。

 さて。
 『冷たい校舎の時は止まる』
 辻村深月さんのメフィスト賞受賞作です。
 考えてみるとネタバレしないで感想を書くのが非常に難しい作品なわけですが、丁寧な作風に好感を持てます。レベルEの某話を下敷きにしているんじゃないかと思うんですが、その一ネタにとどまらず、重層的に伏線を巡らせる、非常にテクニカルな作風です。
 今時珍しく、いわゆる『読者への挑戦』があって、材料が出そろったところで犯人が誰なのかをストレートに問いかけてきます。
 私の成績としては、仕掛け人は分かったんですけど、とあるキャラクタの役割を完全に読み違えていて、読了後に思わずやられたとつぶやきました……。
 それでいて語り口は軽快かつ読みやすいところも良いです。
 割と長いお話ですが、ホライゾンよりはましです。長さ相応の読み応えもありますので、是非オススメしたいと思います。

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投稿者 文月そら : 23:19 | コメント (0) | トラックバック

2011年5月20日

[書籍]【ネタバレ感想】俺の妹がこんなに可愛いわけがない8巻 【ネタバレ感想】俺の妹がこんなに可愛いわけがない8巻

 事前に例のネタバレ騒動を踏んでしまい、発売日まで心理的に物凄い葛藤を生じた挙句、発売日には店頭で冷や汗流しながら立ち読みまでして確認しましたが、結果的に豪快なミスリードでしたね……。見事に釣られました。

 張っている内容自体には全く嘘がなかっただけに、あの釣り師は一流だったと言わざるを得ません。
 ということで、以下ネタバレです。


 
 
 

 騒動を全くご存知ない方もおられるかと思いますので、一応参考まで。

 http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-1792.html

 これだけ見ていると、絵に描いたような、かませ犬展開に見えるんですよね。
 それだけは絶対無いと思っていたんですが、活字でみせられると焦りました……。

 さて、内容ですが、黒猫が一体いつの時点からこの計画を考えていたのか分かりませんが、彼女の決断を見て、かつて桐乃があやせたち普通の友達も、黒猫たちオタクの友達も両方捨てることはできない、と言ったことを思い出しました。
 つまり黒猫は、友達としての桐乃も、恋人としての京介も、そして友達としての京介、更には沙織も含めた友達全体の関係まで含めて、全てあきらめないために、これを計画したのだろうということです。お前らホント似たもの同士だな……。

 まあなんというか、黒猫の意図は分かるんですよ。桐乃が心から納得しない以上、この関係を続けることはできないと。……にしても潔癖すぎるというかなんというか。

 ある意味で、黒猫はわざわざアドバンテージを放棄したということもできます。ラスト付近で麻奈美も似たようなことを言っていましたが、黒猫が一時恋人の立場に収まり、別れることで、この超鈍感男に、自分の気持ち、周囲の気持ち、問題の所在を認識させたわけです。
 つまり、自分のどうしようもないシスコンぷりと、周囲を傷つけるレベルの鈍感ぷりについて。
 そして、自分に恋人ができるということが、自分と周囲、特に桐乃ににどういう影響を与えるかを。

 これは桐乃についても言えて、兄に恋人がいる状態というものの予行演習として、これ以上ない経験をつめたことでしょう。経験があれば、シミュレーションができる、心の準備ができる。

 いわば、あの人騒がせな兄妹に、予防接種をさせたようなものです。

 別に黒猫は、恋人という立場のまま、時間をかけて桐乃をなだめていくこともできたはずです。これが例えば麻奈美だと、これまでの経緯もあり、桐乃の心情的に難しかったでしょうが、桐乃は根本的に黒猫を嫌いになれないはずですから、そういう戦略もとれたし、そのほうが楽だったはずです。

 でも黒猫は、それを潔しとしなかった。

 なぜか。
 ……それは推測するしかないですが、恐らくは京介には『自分の恋人』として、桐乃には『兄の恋人』として、自分のことをちゃんと選んで欲しかったんだと思います。なあなあの、なしくずしでは、彼女のプライドが許さないのでしょう。めんどくさい女なのです、黒猫。そこが可愛いところですけど。

 自分で告白して、自分で関係を終焉させた以上、黒猫が自分から告白していくことは、もうないと思います。黒猫は理屈に合わない行動は、とれないタイプだからです。
 ここで京介が本質的に麻奈美に逆らえないことが強調され、ラスボス臭を漂わせながら存在感を際立たせてきたのは恐ろしいところです。
 『いつかは京介に恋人ができる』という状況を本人、当事者を含め、全てのプレイヤーが認識したことで、レースは再び、混戦になったからです。

 さて、今巻での黒猫は、損得勘定では動けず、自分の設定に縛られる性格が、よく表れていたと思います。これまでも、邪気眼キャラは、四角四面な自分を打破する手段として使っている節がありましたが、今回は露骨でしたね。『仮面』をかぶれば、緊張でガチガチの初デートでも、明るく振舞うことができる。だから、あそこは神猫でないといけなかったのです。
 そういえば、ご丁寧に仮面まで持ってましたね。黒猫めんどかわいいよ黒猫。

 状況がカオスになって終わってしまったので、読後のカタルシスはいまいちでしたが、面白い展開だと思います。次巻も楽しみです。

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投稿者 文月そら : 01:44 | コメント (0) | トラックバック

2011年4月27日

[感想書籍]神様のメモ帳1〜6巻神様のメモ帳1〜6巻

 三巻まで読んでみて、これは面白いと思い、最新六巻まで一気に読了しました。


神様のメモ帳 杉井光

 乱暴に言えば、ゴシックと新宿鮫が悪魔合体して探偵は12歳美少女ですという感じのお話です。
 毎回様々な、割としゃれにならない揉め事が起こります。高頻度で暴力沙汰です。
 でも根底に流れるのは、誰かを待っている人と、待たせている人のすれ違い、あるいは再会の物語。

 真実は往々にして救いではない、ということが繰り返し語られます。

 活躍するのは概ね男であり、物語上輝くのもほとんど男という、男性向けラノベとは思えないチャレンジングな仕様ですが、お勧めできる内容だと思います。

 以下、ネタばれありです。


 
 
 
 

 ただ正直、最新刊まで読んでみてのテンションは、三巻までと比べて少し下がり気味です。
 少佐もヒロさんも四代目もテツ先輩も、非常にいいキャラクタで、巻を追うごとに好きになってゆきます。
 ……つうかこの作品は男が魅力的すぎる。
 アニメ化にあたり、物凄い勢いでホモ同人が乱立しそうな予感すらします。
 主人公の鳴海も、女性関係での他人事ながら殴りたいほど腹が立つ鈍感ぶり以外は、魅力的なキャラクタです。
 それなのに、なんでテンションが下がり気味なのか。

 それは、四巻以降、彩夏の扱いが酷すぎるからです。

 鳴海にとって彩夏は、はじまりの唯一人であり、世界の扉そのものであったはずです。
 彩夏と知り合い、園芸部に、ラーメン屋に誘われなければ、何も始まらなかった。
 ただ一人でグチグチくすぶっている、一巻冒頭時点のうっとおしい鳴海のままだったはずです。

 彩夏は一見社交的ですし、周囲のあらゆる人とうまくやっているように見えてしまいます。ほっといても問題がないように思われがちでしょう。
 でも実のところ彼女のそういう姿は、周囲から期待された役割を演じているだけで、内面的には離人症に近い状態なんじゃないかと思われるほどです。
 記憶を失ってからは特にそうだと思います。前より一層、自分が本当に何を考え、何をしたいのか、わからなくなっているんじゃないかと。

 そして、物語上の立ち位置は、現在、ほぼモブになっています。
 園芸委員会での接点もなくなり、また事件捜査にも関われない以上、自然なことではありますが……。
 積極的な分、メオの方が目立つくらいです。

 で、少なくとも鳴海は、彩夏がそういう性格だということを知っているはずです。
 見た目よりもずっと危うい。むしろ登場キャラクタの誰より爆弾をかかえている。
 何かの拍子に記憶を取り戻しでもしたら、発作的に何をするかもわからない。それも知っているはずです。

 それなのに、なぜあんなに放っておけるのか。
 一度完全に失って、あんなに苦しんだくせに。

 ぞっとしたのが、最近、鳴海とアリスが二人きりで事務所を開き、そこで生活することを応援するような発言を、彩夏がし始めたことです。
 それまでは、無防備なアリスを諌める(=二人の間に割って入る)立場だったのに。
 単純に『アリスと鳴海の友人としての彩夏』という役割を演じたんだと思うのですが……これ、かなり高水準で自分を見失ってしまっているんじゃないか。しかも、自分から二人に話を振っているし。
 ……何か、彼女の中で、マズいことが起こっている気がして仕方がありません。

 そういうことを考え出すと怖すぎて、アリスと鳴海のラブコメシーンも全く楽しめません。二人とも彩夏ほっといて能天気になにやってんだと思ってしまいます。
 このへんは多分私がアリスに全く感情移入できないのも悪いんだろうとも思うんですが……。俺妹の桐乃もそうですけど、どうも『素直になれなくて不器用なあまり横暴になる』キャラクタが苦手なんですよね……。視界から外したくなってしまう。
 まあ、小学生のアリスにそんな配慮を求めるのは酷な話ですけど。

 作者さんが単に何にも考えていなくて、成り行き上彩夏が空気ヒロインになったというだけなら(別ベクトルで腹は立つものの)まだいいんですが、わざわざ三巻で結局彩夏の記憶を戻さなかったことを考えると……何か仕込んでいるんだろうなあ。
 考えてみると彩夏の兄、かなりいろんな主要人物にかかわりの深いキャラクタのはずなのに、あれ以降全く出てこないし。
 ここまでの丁寧な話作りから考えても、何かありそうです。

 ということで、怖がりながら続刊を待ちたいと思います。

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投稿者 文月そら : 02:06 | コメント (0) | トラックバック

2011年3月 3日

[感想書籍漫画]物凄く天野美汐方面に偏った綾辻行人「Another」漫画版の感想物凄く天野美汐方面に偏った綾辻行人「Another」漫画版の感想

※致命的ではないと思いますが当方小説版を読了しており、多少ネタバレあります。ご注意を。
 
 
Another 綾辻行人 清原紘


 最初に謝罪しておきますが、私は綾辻行人さんの作品に苦手意識がありました。読んだのはいわゆる館シリーズだったのですが、面白いけど、どこか合わないなあと思っていたのです。
 この『Another』も、実は以前薦められたことがあったのですが、そんなわけで敬遠していました。
 ところが、これの漫画版を読む機会がありまして、衝撃を受けました。

 さて。私は大体、どんな作品に触れるときでも、無意識のうちに美汐ランキングを作ってしまい、その上位ランカーを無条件でひいきする傾向があるのですが……この『Another』のヒロイン、特に漫画版の見崎鳴の天野美汐っぷりといったら物凄いレベルでした。ちょっと類例が思いつかないくらいです。

例えば……。

・ボブで髪の毛くるくる
・クラスで孤立
・事件の開始を告げる役割を担っている
・真面目で物静か
・それなのに不思議なことをいい、不思議な行動をとる
・つまり語り部であり、存在そのものが物語の説得力になっている
・過去にとても悲しい別れを経験している

 しかも作画の清原紘さん、凄みすら感じるほど、美しく、かつ、不吉な画面作りをされていて、雰囲気も素晴らしいのです。

 ひと言で感想を言うなら
「うおお! 鳴ちゃん不吉可愛いいい!!」
 ……といったところでしょうか。

 そんなこんなで漫画版の一巻を読んでから居ても立ってもいられず、ハードカバーの原作を借りてきて全力で読みきりました。

 そしたら更に素晴らしい事実に直面しました。
 この話、ホラーなのにすげえヒロインと主人公がいちゃつくんですよ!
 まあ、二人とも真面目な性格なので、直接的ないちゃつき方はしないんですけど、とある事情もあって、ずっと二人きりで事態に対応していくんですよね。もうなんつうか、すばらしい。

 まともな感想も言っておきますと、読みながらホラーとミステリの相似について考えさせられました。すなわちどちらも『明かされない真実』があって、その解明に取り組むと共に事態の打開を図るわけですから。
 さすが実績あるミステリ作家らしく、すごく丁寧に伏線回収をするホラーで、特に終盤、話のピースがぴたりぴたりとはまっていく様はとても気持ちよく、面白かったです。綾辻さんの作品への偏見を綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれました。
 そもそも館シリーズを読んだのは遥か昔、学生時代の話ですから、今読むと印象が違うかもしれません。今度読み直してみようと思います。

 漫画版のほうは今月2巻が出たのですが、その帯でアニメ化、実写映画化が発表されました。物凄く楽しみです。

 そしておそらく漫画では3巻からいちゃつきが始まるので、そっちは更に楽しみです!!

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投稿者 文月そら : 20:53 | コメント (0) | トラックバック

2010年11月10日

[感想書籍]「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想その2「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想その2

 昨日のエントリ(リンク先ネタバレ)について、えむけーつーさんから言及をいただきました。これはそのお返事をかねてのエントリです。
 当然ネタバレしかありませんので、原作未読の方は回避推奨です。


 
 
 

 えむけーつーさんにいただいた言及はこちら
 ……なるほど、桐乃と京介に血縁がなく、そのことを桐乃しか知らないと仮定すれば、現状の桐乃と京介の温度差についても綺麗に説明がつきますね……。
 非血縁説については、何度か目にはしていたものの、ずっとスルーしてきました。おそらくひとえに黒猫に不利な話であるせいです……。でも、これは無視できなくなっちまいましたね。

 何かのタイミングで(そういえば桐乃はプロモデルであり、あの年で仕事をしていますから、契約の時に戸籍を取り寄せた可能性があります)、真実を知った桐乃。大好きだったお兄ちゃんと、実は血の繋がりがなかった。距離のとり方がわからず、挙動不審になる桐乃。その妙に色気づいたような対応に、京介は兄として気持ち悪さを感じて、何かの暴言をはく。これが今巻の

「あのときは気持ち悪いみたいな顔したくせに! なんでいまさら! いまさら! そんなこと言うのよ!」

 という台詞につながっていると考えられます。
 傷付いた桐乃は、京介を露骨に拒絶するようになる。京介はわけもわからないまま、これまで仲の悪い兄妹の関係に甘んじてきた……。ううん。すげえ綺麗にはまるなあ。
 「大好きだったお兄ちゃん」の部分がひっかかる方もおられるかも知れませんが、大体、お互いに大嫌いってことは、お互いに強い関心を持っているということの裏返しでもあります。何かの事件が起こる前は、物凄く仲が良かったんじゃないかとも考えられるわけです。実際、関係が修復されてみると、京介の主観はともかく、第三者からみたらベタベタ湿度の高い兄妹関係になっているわけですから、そういう可能性は高いといえるでしょう。
 また、京介に桐乃が生まれたころの記憶があることが、この非血縁説の障害となっていますが、これもこう考えればクリアできます。すなわち、『妹が実子で、兄のほうが養子、あるいは連れ子』であればよいのです。
 うひゃあ。なんだこの嵌まり様。もう非血縁としか考えられなくなってきました。

 さて、桐乃と京介に血の繋がりがないとすると、俄然桐乃エンドのハードルが低くなってくるわけですが、黒猫派たる私の反論としては、以下の二点があります。

 まず一つ目は、京介自身のモラルの問題です。たとえ事実として桐乃と血縁がなかったとしても、今さら京介は桐乃を女としてみられないんじゃないか、ということです。京介はこれまで、心の底から桐乃を実の妹だと信じてきたわけで、その強固な意識は変えようがないんじゃないかと思います。事実はどうあれ、京介にとって、桐乃は大事な妹であり、それはもはや動かせないと思うのです。

 もう一つは、昨日のエントリでも少しお話しましたが、最後のこの描写です。

この告白から数日後――
 俺と黒猫は、恋人になった。

 この『数日後』がなかったら、もっと不安になってたんですよ。確かに、物語の原則として、先行提示した情報は、覆すのが定石ですから。
 でも、京介はこの場では返事をしていない。これはつまり、この数日間に、まだ開示されていない物語があるということです。その帰結として、京介は黒猫と恋人になることを決断した。それだけは、確約されているのです。

 ……まあ、それでもその後、最終的にどうなったかはわからないわけですけど。
 ということで、黒猫派としても結構ゆらいでおります。そういう意味で今回MK2さんの提示してくれた図式の綺麗さは救いです。すがりたい。

 とまあ、こういうような話を書いていたところ、necolaus.netさんからトラックバックをいただきました。ありがとうございます。
 なるほど、確かにモラルを論拠にせずに解釈すると、色々苦しいですよね……。タイトル的にもメインヒロインが桐乃であるのは間違いないわけですし。

 でも一つだけ反論させてください。

 黒猫は、桐乃を奮い立たせるため、敢えて自らを犠牲にする覚悟を以て先に告白したのではないか

 これは違うかもしれません。
 7巻の黒猫のこの言葉が根拠です。

「結局私は、ある人を見習って、自分の欲求に素直になろうと決めたの。思い切り、欲張りになろうと決めた。……きっとあの女ならこんなとき、どちらかを諦めたりはしないでしょうから」

 ここで黒猫は桐乃も京介も両方取ると宣言しているからです。この決意はホンモノだと思います。

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投稿者 文月そら : 22:29 | コメント (5) | トラックバック

[感想書籍]「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想

 いやびっくりですよ。
 何がって、あの例の事前ネタバレでも流れた一番最後の展開のことですけどね。
 あんまりびっくりして、死んでたブログが生き返りました。

 以下、ネタバレ満載でおおくりしますので、未読の方は回避推奨です。

 
 
 

 今回はまた随分とバランスを崩してきたなあ、というのが大きな印象です。
 このシリーズはこれまで、恋愛関係にせよ、友人関係にせよ、家族関係にせよ、決定的なひと言は言わずにまわしてきました。まあ、黒猫がキスはしてましたけど、あれも「呪い」という言い訳付きでした。
 誰もが自分の好意を相手に伝えることなくここまできたのは、お互いが臆病という言い訳の元、現状に甘んじていたから。何も言わなければ、少なくとも現在のポジションを失うことはないから。それが、京介を中心としたラブコメシステムを支えていました。

 最初に桐乃がそのバランスを崩してきたのは意外でした。二度の狂言彼氏騒ぎ、明らかにどちらも、京介の気持ちを量るためにやってますからね。正直、桐乃の気持ちというのは、妹としての好意にとどまるはずだと思っていたので、ここまでの行動に出てくるとは……意外でした。
 作中で桐乃自身も言っていますが、この桐乃の行動を触発したのは、麻奈実と黒猫の存在です。

「自分はっ! 自分はっ! 地味子とかっ……あの黒いのとかといちゃついてるくせに! 勝手なこというなっ!」

 でもって、この次に、桐乃は気になることを言っています。

「あのときは気持ち悪いみたいな顔したくせに! なんでいまさら! いまさら! そんなこと言うのよ!」

 『あのとき』……普通に考えれば、7巻前半の京介とのデート、最後の口論のことを指すような気がしますが、良く考えてみるとちょっとおかしい。

「せっかく俺が嫌々協力してやったっつーのによ」
「おまえの彼氏役なんざ、もう二度とごめんだね」

 桐乃を怒らせたと思われる京介の台詞はこのあたり。ウザ顔はしていそうですが、嫌悪感をみせているシーンではなさそうです。
 更に『いまさら』という言葉も気になります。『いまさら』という言葉には、もうある程度古い過去のことで、しかも取り返しがつかない後悔のニュアンスがあると思います。……どうも、あの未回収の伏線『押入れの中のまだ見せられない秘密』がからんでいるような気がします。

 今回、『妹の彼氏』という存在をテーマに、兄妹がぶつかったわけですが、恐らく次は、この構図がそのまま反転するものと思われます。すなわち『兄の彼女』。桐乃のほうについては、恐らく最後の長電話で、これからする黒猫の告白について聞かされていると思うので、ある程度は冷静に対処してくると思いますが、問題は麻奈実ですね。
 京介にとって麻奈実とはどういう存在なのか。京介が常に軽く扱ってきた麻奈実ですが、それでいて麻奈実に彼氏が、なんていう話になると不機嫌になったりして、独占欲だけは発揮してきました。
 思うに、京介にとって麻奈実というのは、妹かつ姉のような存在だったんじゃないかと思うんですよね。今回見せた桐乃への執着と近い意味で、麻奈実にも執着してきた。でも麻奈実のほうはそんな気持ちからは一歩も二歩も踏み込んでいるわけで……このすれ違いが、トラブルを生まずにはおかない。これに桐乃との過去もあわせて、京介はこれまでのツケをまとめて払わされる、手痛いしっぺ返しをくらうことでしょう。……あやせと麻奈実とのつながりが、今回わざわざ示唆されたことも考えると、更に恐ろしいことになる可能性も……。

この告白から数日後――
 俺と黒猫は、恋人になった。

 数日後っていうのがポイントですよね。京介はこの場ではOKしていない。恐らくこの間のすったもんだが、次巻で描かれることでしょう。

 ――まあ、黒猫派としては願ってもない展開なわけですが、あまりにも都合が良すぎて怖い面もあります。この期に及んで最終的に黒猫振ったりしやがったら京介覚悟しやがれって感じですよ。
 ようやく執筆が始まったかどうかというところであるようなので、まだ先でしょうけど、今から次の巻の発売が待ち遠しくてたまりません。

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投稿者 文月そら : 01:34 | コメント (2) | トラックバック

2010年2月28日

[書籍]【俺の妹が】黒猫邪気眼問題【こんなに可愛いわけがない】(ネタバレ)【俺の妹が】黒猫邪気眼問題【こんなに可愛いわけがない】(ネタバレ)

 前のエントリの続きみたいな感じになりますが、『俺の妹』に登場する黒猫というキャラクタのリアリティについて、ちょっと取り上げてみたいと思います。

 実は、私は最初違和感なかったんですが、黒猫の邪気眼ぷりについて、どうもうそくさい、との意見があることを知りました。
 ……言われてみればその通り。
『頭のいい娘であるはずの黒猫が、あんな現実離れした言動をとるのはおかしい』
 確かにその解釈には説得力があります。

 でも私には、指摘を受けるまでそういう違和感が全くなかった。何故か。
 ……恐らくそれは、私自身が割と邪気眼な中高生だったせいだと思われますw
 ――詳しく話すのは自爆過ぎるので避けますが。

 ……あ、ちなみにここで、邪気眼とは『現実世界とはかけはなれた厨設定を、現実の中に持ち込んでしまうこと』といったあたりに定義を置くとします。

 とにかく、そんな私の個人的な感触として、邪気眼の有無と頭の良さには関係がないのではないか、という考えを持っています。
 自分の周りを見渡しても、例えば東大京大、六大学あたりの高学歴な人間であるからといって、その小中高生時代が邪気眼と無関係とは限りません(無論、高学歴が頭の良さと直結するわけではありませんが、全くの無相関ということもないと思うのでここではその議論は置きます)。

 さてここで、人は何故邪気眼になるのかを考えてみます。
 邪気眼というのは、その設定の特異性ばかりが目を引きますが、それらは突然生じたものではなく、元々はある特定の作品の設定です。例を挙げるなら……まあ世代にも性別にもよるでしょうが、幽々白書であったり、ロードス島戦記であったり、あるいはドラゴンボール、最近ならゼロの使い魔とか、ワンピースなんかも入るかもしれません。……で、黒猫にとってのそれが、恐らく『マスケラ』なんだと思います。

 普通の人は面白い物語に触れても「ああ、面白かった」という程度で終わってしまう方が多いでしょう。まあせいぜい、ハリウッドアクション映画を観たあと、しばらく自分が強くなったような気がしたりとか、その程度だと思います。

 でも、ある種の業が深い人間はそれでは済みません。描かれた物語、登場人物の姿を全てしゃぶりつくしても飽き足らず、その作品世界そのものを自分の中に取り込もうとします。描かれたエピソードの裏側はどうなっていたのか、描かれなかった人間関係はどうだったのか、その後、本当に世界は平和になったのか、などなど。そして発想を膨らましていく中で、世界に破綻を見つけると、無理のない新設定を考え、物語をつむぎ出して修復します。こうして妄想はとどまるところを知らずに拡大していきます。当然、世界観も人物像も、どんどんリアリティを増していきます。

 ついに没入が臨界点を越えると、こういうことを考えるようになります。
『もしかすると知らないだけで、この世界のどこかに、本当に彼らはいるんじゃないだろうか』
『もしかすると知らないだけで、ああいう超能力が、この世界にもあるんじゃないだろうか』
 ……邪気眼、一丁上がり、であります。

 この辺、黒猫が同人活動をしているというあたりを含めて、非常にリアリティを感じるんですよね。
 でもって、大好きなその世界観にひっぱられて、オリジナルを書いてもそっち方向から離れられなくなってしまうのです。特に若い頃は。

 ……とまあ、以上のようなことから、黒猫はああいう業の深い娘になっているのではないかと考える次第です。

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投稿者 文月そら : 04:06 | コメント (0) | トラックバック