1  |  2  |  3  |  4  | 全部読む

Top > 感想 > 書籍

2012年10月26日

[感想書籍]「マグダラで眠れ」 「マグダラで眠れ」

 「狼と香辛料」で有名な支倉凍砂さんの最新作「マグダラで眠れ」のご紹介です。
 前作が交易をメインにした『旅と商人としっぽの物語』であったのに対して、今回は『神と錬金術師とケモミミの物語』とでもいいましょうか。
 先日2巻が発売されたのですが、これが抜群に面白かった。
 錬金術とは言っても、鋼とか焔とか等価交換とか真理の扉とかそういうのではなくて、かつて本当に実在した、科学の先祖としての錬金術。中でも金属精製をメインとした冶金術です。
 鉛の精製方法とか、そこから貴金属を取り出す方法とか、更には鉛の鉱山であっても、金銀の含有量こそが採算性を決めるとか……。なんせ、そんな方面の知識なんぞありませんから、提示される蘊蓄のいちいちが興味深かったです。相変わらずの綿密な取材と、それに基づく緻密な世界構築には頭が下がります。
 面白いのは、香辛料の時にロレンスが所属していた商人コミュニティと錬金術師とは、全然違う立場なんですよね。商人は良くも悪くも町の秩序・経済・日常を司る存在であるのに対して、錬金術師は混沌・禁忌・非日常を表す存在なんですね。
 そりゃまあ、神様の存在が一般的に信じられている世界において、その神様の啓示とは別の法則や秩序の存在を、禁忌に踏み込むことも辞さず求め続ける人間というのは、さぞかし普通の人にとって気味の悪い存在であることでしょう。作中での主人公クースラの扱われからからも、大釜にあやしげな薬を混ぜ合わせてよからぬ術をたくらむ魔女と区別がつかないんだろうな、ということがよく伝わってきます。
 クースラは科学者のはしりであり、クールで利己的で理性的な存在として描かれていますが、もう一方で、どうしようもなくロマンチストでもあります。まあ本当に理性的な人はオリハルコンなんて追い求めないし、姫を守る騎士としての自分なぞ夢想したりはしません。
 それに対してヒロインであるフェネシスは、虐げられてきたわりに、やけに素直で世間知らずで何色にでも染まりそうな、文字通り真っ白な修道女。しかしあまり口を開かず、クースラのからかいにぶんむくれながらも錬金術の修行に打ち込む姿はかなりの頑固者であることも示しています。
 冶金術の不思議さ、面白さと、互いに別の意味で社会からはみ出し、忌み嫌われてきたにも関わらず、妙に純粋なところのある二人の行く先。どちらも興味深く、続きが楽しみです。

 2巻はダマスカス綱をめぐるお話でした。日本の古刀、中国の青磁なんかもそうですが、現代では製法の失われた遺物、ロストテクノロジーの浪漫たるや半端ないですな。
 必ずしも、過去より未来が優れているわけではない。そんなことをキュンキュン思い出させてくれる一冊でした。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 22:54 | コメント (0) | トラックバック

2012年9月 8日

[感想書籍]俺の妹がこんなに可愛いわけがない11巻ネタバレ感想 俺の妹がこんなに可愛いわけがない11巻ネタバレ感想

 桐乃が兄に幻滅したという大まかな形そのものは、事前の予想通りでしたが、いやこれ麻奈実の犠牲でかすぎるだろ……というのが過去編を読んだ感想です。

 麻奈実は、恐らくは麻奈実と桐乃、二人のヒーローだった京介が、等身大の当たり前の人間であることを許しました。本来、母親なり、祖母なりが担うべき『ありのままでいい、つまらない人間でもいい』という絶対的な存在の肯定。そんな達観した立場に、中三にして立たされた麻奈実が痛々しかったです。
 これで結局、京介がヒーローを辞めた代償として、麻奈実は京介の保護者としての立場から降りられなくなってしまったんじゃないでしょうか。
 3年前の描写をみると、京介が麻奈実におばあちゃんネタを振ったとき、麻奈実も京介におじいちゃんと返す、応じネタをもっていました。しかし、現在では京介が麻奈実をおばあちゃんと呼ぶばかり。一方通行になってしまった関係に、いびつなものを感じてしまいます。

 あくまで私は黒猫派であり、黒猫エンド以外は見たくないんだけども……抱擁・肯定・号泣。みっともなさも情けなさもすべてを受け入れて「好きだ」とまで言ってくれた麻奈実をその後放置とか……ちょっとどうなんですかね京介、男として。

 なんでこうまで麻奈実に不憫さを感じてしまうかというと、実は黒猫も、似たような立場に立たされているからなのかもしれません。一度は『京介の彼女』の座を射止めながら、みんなが幸せになれるように、京介と桐乃の気持ちをおもんばかって身を引いた黒猫。割と麻奈実の場合と相似形なんですよね。
 こうして、やたら京介(及び桐乃)に甘いハーレム状況が、麻奈実と黒猫の犠牲の下、成立したのです。
 ……というか、どうしてもこういうイヤな解釈がちらついてしまうんですよね。
 最終巻開始時点で、京介が誰でも選べる状況を作るために、麻奈実は保護者であり続けることを、黒猫は身を引き別れることを強いられたんじゃないかって。
 だって、二人とも、あまりにもエゴがなさすぎるじゃないですか。

 これで麻奈実か黒猫が選ばれないとするならば、彼女たちは全くの自滅としか言いようがなく、加奈子と麻奈実のあのやりとりが本当にシャレですまなくなってしまうなあと不安に思うわけです。

「加奈子に言わせっと、野良猫とかゆーアホは救いようのないバカっすね」

「あはは。じゃあ、わたしもバカだね」

 思いやりのある人間ほどバカを見るような結末にはなってほしくないと祈るばかりです。

 ラストシーンはちょっと面白かったですね。麻奈実・加奈子・黒猫・あやせが、かわるがわる、自分と京介、そして桐乃の関係についての所信を表明する様は、まるで営業が客先に競合プレゼンしているみたいだと思いました(笑

 さて、次はいよいよ最終巻。京介は誰を選ぶのか、とにかく最低限きっちり決着をみせてほしいと思います。

 京介が誰かに告白をする。でもその相手は誰だか分からない……とかいうのだけはやめて下さいね!

 そういえば、どう考えても某シンデレラなニートアイドルが元ネタと思われる新キャラ、櫻井秋美さん。
 秋の、桜。
 秋桜といえば、コスモスですね。
 コスモスの花言葉は『少女の純真・真心』だそうですよ。……なんか振られるためだけに出てきたような感じもする彼女ですが……これまた不憫すぎる。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 02:06 | コメント (0) | トラックバック

2012年9月 2日

[感想書籍]境界線上のホライゾンV<上>境界線上のホライゾンV<上>


 昨日の時点では左のメニューバーがまるっと消えていたのですが、無事に不具合が直りました。
 ということで、ホライゾンの話でもしましょうかね。

 アニメの二期も好調でなによりですわ。
 正直な話、独特すぎる世界を持つホライゾン、というか川上氏の作品群がここまで広く受け入れられる日が来ようとは思いませんでした。
 先日の夏コミでも、ホライゾンサークルが目白押しでしたし。
 ……残念ながら、ミリアムの本はほとんど見あたりませんでしたが。(既刊のみ一冊確保)

 で、盛り上がっている中の五巻上発売。思っていたより薄くて驚きました。
 恐らく業界でも屈指の生産力を誇る川上氏でも、DVDブルーレイの特典小説は100頁を超え、ドラマCDやらコミック、果てはフィギュアにまで小説をつけていて、近々巨大な設定資料集も出るとのことですので、さすがに戦力の集中を欠いたということでしょうか。
(※五巻上は702頁)

 内容については……なんつうか森君が出てきてから、こいつのエピソードは一体どこにたどり着くんだろうかという点が気になって仕方がありません。
 某所で玄武との関連を指摘されていましたが、なるほど玄武は蛇と亀。触手的な意味でもタートルネック的な意味でも適役と言えましょう。しかも確か玄武って交尾中の暗喩があったし、ナチュラルボーン卑猥な森君にはうってつけといえましょう。
 まあ、異族の多い川上氏の作品ですけども、まさか触手知性体が登場しようとは……。直政とのフラグをやたらとアピールしては硬くなって震えていますが、出てくる度必ず卑猥というのはどういうことなの……。というかアニメに出せるのコレ……。

 直政との関係が進展するとは思えないし思いたくないが、何もないなら出てこないだろというのが頭から離れず困ります。

 

 予×ミリアム的な意味では全く何もありませんでしたね。
 外に出て買い物をする三人の姿が双嬢に目撃されて、ナルゼのネタストックに入っただけです。セリフすらないんでは妄想のしようがないです。
 ただ、ミリアムが部屋の外に出ている姿を描写されたのは初めてだと思うので、そういう意味では貴重かも。

 近々、おそらく本能寺あたりではミリアムのイベントが進行するんじゃないかと思いますので、今回は出番が少なかったのかなと思います。

 ラストで、いるのかいないのか気をもんでいた真田・信之が突然登場してでっかい爆弾を炸裂させましたが、これからどうなるのか、一層楽しみです。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:32 | コメント (0) | トラックバック

2012年4月12日

[感想書籍]俺妹10巻……。俺妹10巻……。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない10巻、読みましたよ。

うーん……。
まあ、ギャグは面白かったです。
相変わらず脇の甘い京介がいろんな人につっこまれまくる様とか。

でもなー。
ちょっとハーレムにもほどがあるというか。
世界があまりにも京介に劇甘すぎて、ちょっとついていけないというか。

ひとつにはPSPで全員ヒロインになるゲームとか出しちゃったのがまずかったのかもしれないですね。
変に希望を持たせてしまったから。
だからこんな、全方面外交みたいな、全てのヒロインのファンに配慮したような展開に行き着いてしまったのかも。

まあ、いよいよ過去バラシに入るみたいなんで、この先には厳しい現実があるのかも知れません。
あとがき曰く、今回は全三巻の第一巻だそうなので。

終盤、タイトルの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を京介が口にしたあたりで、ああ、最後の展開の口火がきられたんだなと思いましたよ。

まあ、ここまでヒロイン増えちゃうと、鈍感主人公を続けるにも無理がある(実際今回はかなりひどかった)ので、さすがにそろそろ決着つけてくれることでしょう。

早く12巻が読みたいです。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:28 | コメント (1) | トラックバック

2011年12月23日

[感想書籍]貝木泥舟というロマンチスト(化物語『恋物語』ネタバレ)貝木泥舟というロマンチスト(化物語『恋物語』ネタバレ)

いやー。見事に騙されましたわ。
西尾維新氏が読者の裏をかくのが大好きだということを考えれば、戦場ヶ原が語り部だなんて予告をくつがえしてくることくらい予想しておくべきでした。
この件から私が学ぶべきことは、経験から学べ、お前はまよいキョンシーの経験を生かすべきだった、ということでしょう。

そんなこんなで冒頭からしばらく、貝木にあざ笑われている間中ケラケラ笑っていた訳ですが、読み終わってみればその貝木のイメージが180度転回してひっくりかえってしまいました。

面白かった。

語れば、言葉にすれば、全ては嘘になってしまう。
それは絶対的な真実です。

例えば私はこの作品をとても面白かったと思ったけれども、全部が全部一言一句句読点の使い方に至るまで全てが気に入ったかというとそういうわけではない。
ここでいう面白かったというのは総括的な感想であって、ディテールのレベルでは好きではない部分だって存在している。
あるいは解釈と見方を変えれば、この作品は嫌いだという感想すら語ることが可能です。

かように言葉というのは脆い物です。

でまあ、貝木は作中、嘘だ嘘だと連発しながら物語っていくわけですけど……。

撫子に貝木は言います。

かけがえのない大切なものが嫌いだと。
かけがえのある大切なものであるお金が大好きだと。

……これって要するに、かけがえのない大切なものを、大切だと言葉にしてしまうことで、嘘になってしまうことが嫌なだけなんじゃないですかね。
だから、ひたぎのことを助けたかったとも言わなかったし、ましてや愛していたなどと言うはずもない。

そうだとしたらもの凄いロマンチストですよね。
阿良々木くん以上だ。
今回は阿良々木くんコテンパンですね。貝木にあらゆる意味で負け切った感がある。
ひたぎとの関係においてすら……。
『今も昔も、あなたは私に嘘をついたことはなかったわ』に至るやりとりとか、『敵』に戻るための二人の間での線の引き合いが、何か美しくすらありました。
こういう大人の貫禄を見せつける展開、好きなんで。
まあ阿良々木くんはまだまだこれからの少年……いや、青年ですからね。


――とまあ、そんな感じで貝木に見事に感情移入させられたと思ったら、あのラストですよ……。

どういうことなの……。

仮に花物語の時点での貝木が幽霊だったとするならば、沼地蝋花、貝木泥舟と、比較的数少ない登場人物の2人までが幽霊だったことになるんですが……。

でも死んでいてほしくないな……。
特に、なんか意外なほど仲良しっぽい忍野との会話が見てみたい……。

それにしても面白かった。
セカンドシーズンで一番好きな花物語と同じくらい好きです。
……あ、もちろんこれは嘘じゃないですよ。嘘じゃない部分だらけです。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:29 | コメント (0) | トラックバック

2011年12月 5日

[アニメ感想書籍]『境界線上のホライゾン』よもやま話2(自重しないVer.)『境界線上のホライゾン』よもやま話2(自重しないVer.)

 なんか意外とホライゾンで検索してこられる方がおられるので、ホライゾン話をもう一度やってみようかと。

 ホライゾンを楽しむコツは、わからんとこはすっとばして自分の好きなところを中心に見ることだ、というお話を前回したと思うんですが、では私が具体的に何を中心にホライゾンをみているかといえば、余こと東と、車椅子のミリアムと、幽霊少女の折りなす擬似家族コントです。
 いかんせん話の本筋と今のところあんまり関係がなく、しかも4巻中現在でも幽霊少女の正体がまるで分かっていない等、不明な点も多いため、アニメでは残念ながら省かれがちです。
 しかし、箱入り、というか世俗と完全に切り離されて育ったせいで全く性的なことについて知識のない東と、「女の子が攻略できるなんて思い上がりよ。世の女の子は、がんばる男の子をみて難易度を下げてあげるのよ」などと嘯きつつ、物凄い勢いで難易度が落下し続ける系女子、ミリアムのラブコメがたまらなく好きなんですわ。
 実は、ミリアムの正体が某超有名人の襲名者だという考察もあったりして、しかもそれが結構説得力あったりするんで今後が不穏な気もしますけど、まあ東がなんとかするでしょう。というかしろ。
 さらに、これは前作もそうだったんですけど、この作品は他にも、ものすげえ沢山カップルが登場するんです。
 しかもそれぞれがそれぞれなりにラブラブすぎてたまらん。男女カップルはもちろん、女性同士だったり、今回は今のところ男性同士ってのはないけど、とにかくあっちゃこっちゃでラブが米っているので、ラブコメ好きとしてはたまりません。
 しかも大体マンツーマンラブなので、ギスギスしたところが全然ない点も個人的に評価を高くしているところです。でもとりあえず点蔵は爆発しろ。

 ここで根本に立ち返って、境界線上のホライゾンという物語がどういう物語かといえば、意思の物語であると言えると思います。
 アニメでやったところですと、自動人形の鹿角さんと本多・忠勝が身を捨てて本懐を遂げるシーン。
 目の見えない鈴がホライゾンの思い出を語り、ホライゾンを助けてと訴えかけるシーン。
 敵側だったはずの正純がトーリに「必ずホライゾンへの道をつけてやる」と宣言するシーン。
 ああいう、強い意志が道理をけっとばすシーンが、いつも力強く描かれています。
 ホライゾン世界は末世という、まあ平たく言うと世界の破滅、消滅へ向かって進んでいる世界です。
 その滅びの運命に、意思ある者達が、それぞれの立場で抗う物語。

 そういうところが、私は好きです。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:26 | コメント (0) | トラックバック

2011年11月19日

[アニメ感想書籍]『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』ブームは何故落ち着いてしまったのか『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』ブームは何故落ち着いてしまったのか

 8巻発売直前までの俺妹(俺の妹がこんなに可愛いわけがない)は、まさしく絶頂期だったといえるでしょう。

 割と運次第なアニメ化もそれなりの高評価を得、新規読者が増えた上で、7巻最後の黒猫の告白から今後の展開がどうなるのか、に、大きな注目が集まり、方々で全身全霊を傾けた議論、煽り合い、多数派工作が展開されました。

 そして8巻発売。

 内容自体は理解できる。という話は発売当初の感想にも書きましたが、私自身としても、あるいは周囲のファンの反応を見ていても、あの後、色々落ち着いてしまった感が否めません。
 実際、9巻もちゃんと読んでいますが、感想エントリは書かずじまいでした。

 思えば黒猫の告白、およびその後の交際開始展開には、もの凄い締め切り効果が働いていたと思います。
 これまで微妙なバランスの上で、ある意味十年一日のごとく成り立っていた京介をめぐる人間関係が、確実に一歩前に進み、(黒猫がそのまま彼女になるのか否かはともかく)ついに何らかの結論がだされるはずだという期待、あるいは予感が強く働いたのです。

 そうなると、近い将来、おそらく9巻あたりまでには出されるであろう(と当時思っていた)『結論』をめぐって、ファン心理は加速しました。
 見えてきてしまったゴールが、自分の期待するモノなのかどうか、最高潮に高まった不安と期待は……しかし8巻で、肩すかしをくらうことになりました。

『なんだ結局、当分結論は出ないのか』

 この感想は、それぞれ立場は違えど、多くの読者に共通するものだったのではないでしょうか。

 7巻発売以前の状態に戻っただけとも言えますが、ここがクライマックスかとばかりに盛り上がった以上、元の木阿弥状態にはやはり残念さが漂います。

 まあ、9巻の日向の『高坂くん超かっけー』が何を意味するのかによっては、次巻あたりで大きな動きがある可能性もありますが、散々踊らされた後だけに……あんま期待はできないかなー。

 演出論的な話になりますけど、読者はフィクションに、何らかの刺激(感動とか恐怖とか共感とか成功体験とか絶望とか、あとかわいいとかエロとか)を求めています。
 京介に彼女が出来るというイベントは恐らく本作中最大の刺激を読者にもたらすカードです。
 ただし、これを不用意に使ってしまうと、それ以降、作中で何が起きても物足りないということになってしまいかねません。
 最大級の刺激をすでに受けてしまっているために、読者があらゆることに慣れてしまうのです。
 今後、京介に本当に彼女ができても、すでに一度体験してしまった刺激なので、インパクトはどうしても薄れます。
 この最強のカードを、不完全燃焼な形で使ってしまったことは、俺妹という作品のファンとして、残念だなあとどうしても思ってしまいます。8巻、9巻を読んでから時間が経つにつれ、一層そういう念が強くなりました。

 正直、結論を出さないのなら、あのままずっとラブコメしていてほしかった。

 もちろん今後も読んでいきます。
 私なんぞの浅薄な懸念を吹き飛ばすような展開を期待しています。

 当方に土下座の用意あり。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 16:33 | コメント (0) | トラックバック

2011年11月18日

[アニメ感想書籍]『境界線上のホライゾン』よもやま話『境界線上のホライゾン』よもやま話

 現在絶賛アニメ放映中の境界線上のホライゾン。
 最初アニメ化するって聞いたときは正直耳を疑いました。
 だって(一応この世界の歴史を下敷きにしているとはいえ)完全に異世界の話で、オリジナル設定だらけですから、アニメという媒体には最も向かないタイプの話だと思ったからです。
 まあ単行本の厚さを見てもアニメ化に向かなそうだというのは分かると思いますけど、本当のところを言えばホライゾンシリーズの内容を全部読んですら設定を語ることは出来ず、その前の『終わりのクロニクル』さらに前の『都市シリーズ』まで含めた、というかホライゾンが終わったあとも続いていくロードマップがすでに存在する、壮大過ぎる歴史サーガなんですよ。
 もう絶対に既存ファンだけしかついて行けない内容になるに違いない……と思っていたんですが、実況まとめサイトなんかを見ると、意外と新規の人も残っているみたいですね。
 まあ、川上稔氏の作品群を読むときの鉄則は『わかんなかったら読み飛ばす』なので、アニメで細かいことを気にしないで好きなとこどりをして観る、ということができた人には、氏の作品は会うかも知れません。
 なんせ、既刊全部読んでいても、突然新設定が出てきて、初読時には全く意味が分からないなんてこと、日常茶飯事ですから……。
 アニメはどこまでやるんですかね。1巻最後までかな。

 2巻行ってイギリスに行ってしまうと、薬中詩人ベンジョンソンさんという、非常に物議をかもしそうな人がでてくるので心配です(笑
 ええ、某陸上選手の話じゃないですよ。歴史上実在した、詩人のベンジョンソンです。あの人とは関係ないです。ええ、きっとそうです。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 00:32 | コメント (0) | トラックバック

2011年11月15日

[感想書籍]『神様のメモ帳8』杉井光『神様のメモ帳8』杉井光

 いやね、もう続き読むのやめようと思ってたんですよ。
 ちょっと彩夏放置が酷すぎないかと。

 まあ、変に事件に関わらせると、記憶が戻って大変なことになりかねないというのは分かるんですけど、それにしたって彩夏があまりにも蚊帳の外すぎる。むしろメオとかのほうが目立つ有様。話そのものは面白いんですけど、なんか読んでて辛くなってきたので、7巻を読み終わったところでもう8巻を買うのはやめようと。

 ところが書店で一応手にとって、折り返しを見てみたら……おいおい、彩夏かかわっとるやん……。

 帰ってきた悪夢との対決。
 そしてラストの4人で迎えた大団円。

 もう何よりも、これからは彩夏がハブられなさそうだというのが一番嬉しい第八巻でございました。まあ、彩夏も、全てを取り戻したわけじゃないにせよ。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 21:55 | コメント (0) | トラックバック

2011年11月14日

[感想書籍]『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月

 書籍の感想には、書影やらアマゾンリンクやらをはるようにしてたんですけど、結局そういう手間があるもんだからよけいに更新しなくなるんだとわかったので、今後は字だけで、もっと気軽に感想書いてみようと思いました。

 さて。
 『冷たい校舎の時は止まる』
 辻村深月さんのメフィスト賞受賞作です。
 考えてみるとネタバレしないで感想を書くのが非常に難しい作品なわけですが、丁寧な作風に好感を持てます。レベルEの某話を下敷きにしているんじゃないかと思うんですが、その一ネタにとどまらず、重層的に伏線を巡らせる、非常にテクニカルな作風です。
 今時珍しく、いわゆる『読者への挑戦』があって、材料が出そろったところで犯人が誰なのかをストレートに問いかけてきます。
 私の成績としては、仕掛け人は分かったんですけど、とあるキャラクタの役割を完全に読み違えていて、読了後に思わずやられたとつぶやきました……。
 それでいて語り口は軽快かつ読みやすいところも良いです。
 割と長いお話ですが、ホライゾンよりはましです。長さ相応の読み応えもありますので、是非オススメしたいと思います。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 23:19 | コメント (0) | トラックバック

2011年5月20日

[書籍]【ネタバレ感想】俺の妹がこんなに可愛いわけがない8巻 【ネタバレ感想】俺の妹がこんなに可愛いわけがない8巻

 事前に例のネタバレ騒動を踏んでしまい、発売日まで心理的に物凄い葛藤を生じた挙句、発売日には店頭で冷や汗流しながら立ち読みまでして確認しましたが、結果的に豪快なミスリードでしたね……。見事に釣られました。

 張っている内容自体には全く嘘がなかっただけに、あの釣り師は一流だったと言わざるを得ません。
 ということで、以下ネタバレです。


 
 
 

 騒動を全くご存知ない方もおられるかと思いますので、一応参考まで。

 http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-1792.html

 これだけ見ていると、絵に描いたような、かませ犬展開に見えるんですよね。
 それだけは絶対無いと思っていたんですが、活字でみせられると焦りました……。

 さて、内容ですが、黒猫が一体いつの時点からこの計画を考えていたのか分かりませんが、彼女の決断を見て、かつて桐乃があやせたち普通の友達も、黒猫たちオタクの友達も両方捨てることはできない、と言ったことを思い出しました。
 つまり黒猫は、友達としての桐乃も、恋人としての京介も、そして友達としての京介、更には沙織も含めた友達全体の関係まで含めて、全てあきらめないために、これを計画したのだろうということです。お前らホント似たもの同士だな……。

 まあなんというか、黒猫の意図は分かるんですよ。桐乃が心から納得しない以上、この関係を続けることはできないと。……にしても潔癖すぎるというかなんというか。

 ある意味で、黒猫はわざわざアドバンテージを放棄したということもできます。ラスト付近で麻奈美も似たようなことを言っていましたが、黒猫が一時恋人の立場に収まり、別れることで、この超鈍感男に、自分の気持ち、周囲の気持ち、問題の所在を認識させたわけです。
 つまり、自分のどうしようもないシスコンぷりと、周囲を傷つけるレベルの鈍感ぷりについて。
 そして、自分に恋人ができるということが、自分と周囲、特に桐乃ににどういう影響を与えるかを。

 これは桐乃についても言えて、兄に恋人がいる状態というものの予行演習として、これ以上ない経験をつめたことでしょう。経験があれば、シミュレーションができる、心の準備ができる。

 いわば、あの人騒がせな兄妹に、予防接種をさせたようなものです。

 別に黒猫は、恋人という立場のまま、時間をかけて桐乃をなだめていくこともできたはずです。これが例えば麻奈美だと、これまでの経緯もあり、桐乃の心情的に難しかったでしょうが、桐乃は根本的に黒猫を嫌いになれないはずですから、そういう戦略もとれたし、そのほうが楽だったはずです。

 でも黒猫は、それを潔しとしなかった。

 なぜか。
 ……それは推測するしかないですが、恐らくは京介には『自分の恋人』として、桐乃には『兄の恋人』として、自分のことをちゃんと選んで欲しかったんだと思います。なあなあの、なしくずしでは、彼女のプライドが許さないのでしょう。めんどくさい女なのです、黒猫。そこが可愛いところですけど。

 自分で告白して、自分で関係を終焉させた以上、黒猫が自分から告白していくことは、もうないと思います。黒猫は理屈に合わない行動は、とれないタイプだからです。
 ここで京介が本質的に麻奈美に逆らえないことが強調され、ラスボス臭を漂わせながら存在感を際立たせてきたのは恐ろしいところです。
 『いつかは京介に恋人ができる』という状況を本人、当事者を含め、全てのプレイヤーが認識したことで、レースは再び、混戦になったからです。

 さて、今巻での黒猫は、損得勘定では動けず、自分の設定に縛られる性格が、よく表れていたと思います。これまでも、邪気眼キャラは、四角四面な自分を打破する手段として使っている節がありましたが、今回は露骨でしたね。『仮面』をかぶれば、緊張でガチガチの初デートでも、明るく振舞うことができる。だから、あそこは神猫でないといけなかったのです。
 そういえば、ご丁寧に仮面まで持ってましたね。黒猫めんどかわいいよ黒猫。

 状況がカオスになって終わってしまったので、読後のカタルシスはいまいちでしたが、面白い展開だと思います。次巻も楽しみです。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:44 | コメント (0) | トラックバック

2011年4月27日

[感想書籍]神様のメモ帳1〜6巻神様のメモ帳1〜6巻

 三巻まで読んでみて、これは面白いと思い、最新六巻まで一気に読了しました。


神様のメモ帳 杉井光

 乱暴に言えば、ゴシックと新宿鮫が悪魔合体して探偵は12歳美少女ですという感じのお話です。
 毎回様々な、割としゃれにならない揉め事が起こります。高頻度で暴力沙汰です。
 でも根底に流れるのは、誰かを待っている人と、待たせている人のすれ違い、あるいは再会の物語。

 真実は往々にして救いではない、ということが繰り返し語られます。

 活躍するのは概ね男であり、物語上輝くのもほとんど男という、男性向けラノベとは思えないチャレンジングな仕様ですが、お勧めできる内容だと思います。

 以下、ネタばれありです。


 
 
 
 

 ただ正直、最新刊まで読んでみてのテンションは、三巻までと比べて少し下がり気味です。
 少佐もヒロさんも四代目もテツ先輩も、非常にいいキャラクタで、巻を追うごとに好きになってゆきます。
 ……つうかこの作品は男が魅力的すぎる。
 アニメ化にあたり、物凄い勢いでホモ同人が乱立しそうな予感すらします。
 主人公の鳴海も、女性関係での他人事ながら殴りたいほど腹が立つ鈍感ぶり以外は、魅力的なキャラクタです。
 それなのに、なんでテンションが下がり気味なのか。

 それは、四巻以降、彩夏の扱いが酷すぎるからです。

 鳴海にとって彩夏は、はじまりの唯一人であり、世界の扉そのものであったはずです。
 彩夏と知り合い、園芸部に、ラーメン屋に誘われなければ、何も始まらなかった。
 ただ一人でグチグチくすぶっている、一巻冒頭時点のうっとおしい鳴海のままだったはずです。

 彩夏は一見社交的ですし、周囲のあらゆる人とうまくやっているように見えてしまいます。ほっといても問題がないように思われがちでしょう。
 でも実のところ彼女のそういう姿は、周囲から期待された役割を演じているだけで、内面的には離人症に近い状態なんじゃないかと思われるほどです。
 記憶を失ってからは特にそうだと思います。前より一層、自分が本当に何を考え、何をしたいのか、わからなくなっているんじゃないかと。

 そして、物語上の立ち位置は、現在、ほぼモブになっています。
 園芸委員会での接点もなくなり、また事件捜査にも関われない以上、自然なことではありますが……。
 積極的な分、メオの方が目立つくらいです。

 で、少なくとも鳴海は、彩夏がそういう性格だということを知っているはずです。
 見た目よりもずっと危うい。むしろ登場キャラクタの誰より爆弾をかかえている。
 何かの拍子に記憶を取り戻しでもしたら、発作的に何をするかもわからない。それも知っているはずです。

 それなのに、なぜあんなに放っておけるのか。
 一度完全に失って、あんなに苦しんだくせに。

 ぞっとしたのが、最近、鳴海とアリスが二人きりで事務所を開き、そこで生活することを応援するような発言を、彩夏がし始めたことです。
 それまでは、無防備なアリスを諌める(=二人の間に割って入る)立場だったのに。
 単純に『アリスと鳴海の友人としての彩夏』という役割を演じたんだと思うのですが……これ、かなり高水準で自分を見失ってしまっているんじゃないか。しかも、自分から二人に話を振っているし。
 ……何か、彼女の中で、マズいことが起こっている気がして仕方がありません。

 そういうことを考え出すと怖すぎて、アリスと鳴海のラブコメシーンも全く楽しめません。二人とも彩夏ほっといて能天気になにやってんだと思ってしまいます。
 このへんは多分私がアリスに全く感情移入できないのも悪いんだろうとも思うんですが……。俺妹の桐乃もそうですけど、どうも『素直になれなくて不器用なあまり横暴になる』キャラクタが苦手なんですよね……。視界から外したくなってしまう。
 まあ、小学生のアリスにそんな配慮を求めるのは酷な話ですけど。

 作者さんが単に何にも考えていなくて、成り行き上彩夏が空気ヒロインになったというだけなら(別ベクトルで腹は立つものの)まだいいんですが、わざわざ三巻で結局彩夏の記憶を戻さなかったことを考えると……何か仕込んでいるんだろうなあ。
 考えてみると彩夏の兄、かなりいろんな主要人物にかかわりの深いキャラクタのはずなのに、あれ以降全く出てこないし。
 ここまでの丁寧な話作りから考えても、何かありそうです。

 ということで、怖がりながら続刊を待ちたいと思います。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 02:06 | コメント (0) | トラックバック

2011年3月 3日

[感想書籍漫画]物凄く天野美汐方面に偏った綾辻行人「Another」漫画版の感想物凄く天野美汐方面に偏った綾辻行人「Another」漫画版の感想

※致命的ではないと思いますが当方小説版を読了しており、多少ネタバレあります。ご注意を。
 
 
Another 綾辻行人 清原紘


 最初に謝罪しておきますが、私は綾辻行人さんの作品に苦手意識がありました。読んだのはいわゆる館シリーズだったのですが、面白いけど、どこか合わないなあと思っていたのです。
 この『Another』も、実は以前薦められたことがあったのですが、そんなわけで敬遠していました。
 ところが、これの漫画版を読む機会がありまして、衝撃を受けました。

 さて。私は大体、どんな作品に触れるときでも、無意識のうちに美汐ランキングを作ってしまい、その上位ランカーを無条件でひいきする傾向があるのですが……この『Another』のヒロイン、特に漫画版の見崎鳴の天野美汐っぷりといったら物凄いレベルでした。ちょっと類例が思いつかないくらいです。

例えば……。

・ボブで髪の毛くるくる
・クラスで孤立
・事件の開始を告げる役割を担っている
・真面目で物静か
・それなのに不思議なことをいい、不思議な行動をとる
・つまり語り部であり、存在そのものが物語の説得力になっている
・過去にとても悲しい別れを経験している

 しかも作画の清原紘さん、凄みすら感じるほど、美しく、かつ、不吉な画面作りをされていて、雰囲気も素晴らしいのです。

 ひと言で感想を言うなら
「うおお! 鳴ちゃん不吉可愛いいい!!」
 ……といったところでしょうか。

 そんなこんなで漫画版の一巻を読んでから居ても立ってもいられず、ハードカバーの原作を借りてきて全力で読みきりました。

 そしたら更に素晴らしい事実に直面しました。
 この話、ホラーなのにすげえヒロインと主人公がいちゃつくんですよ!
 まあ、二人とも真面目な性格なので、直接的ないちゃつき方はしないんですけど、とある事情もあって、ずっと二人きりで事態に対応していくんですよね。もうなんつうか、すばらしい。

 まともな感想も言っておきますと、読みながらホラーとミステリの相似について考えさせられました。すなわちどちらも『明かされない真実』があって、その解明に取り組むと共に事態の打開を図るわけですから。
 さすが実績あるミステリ作家らしく、すごく丁寧に伏線回収をするホラーで、特に終盤、話のピースがぴたりぴたりとはまっていく様はとても気持ちよく、面白かったです。綾辻さんの作品への偏見を綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれました。
 そもそも館シリーズを読んだのは遥か昔、学生時代の話ですから、今読むと印象が違うかもしれません。今度読み直してみようと思います。

 漫画版のほうは今月2巻が出たのですが、その帯でアニメ化、実写映画化が発表されました。物凄く楽しみです。

 そしておそらく漫画では3巻からいちゃつきが始まるので、そっちは更に楽しみです!!

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 20:53 | コメント (0) | トラックバック

2010年11月10日

[感想書籍]「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想その2「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想その2

 昨日のエントリ(リンク先ネタバレ)について、えむけーつーさんから言及をいただきました。これはそのお返事をかねてのエントリです。
 当然ネタバレしかありませんので、原作未読の方は回避推奨です。


 
 
 

 えむけーつーさんにいただいた言及はこちら
 ……なるほど、桐乃と京介に血縁がなく、そのことを桐乃しか知らないと仮定すれば、現状の桐乃と京介の温度差についても綺麗に説明がつきますね……。
 非血縁説については、何度か目にはしていたものの、ずっとスルーしてきました。おそらくひとえに黒猫に不利な話であるせいです……。でも、これは無視できなくなっちまいましたね。

 何かのタイミングで(そういえば桐乃はプロモデルであり、あの年で仕事をしていますから、契約の時に戸籍を取り寄せた可能性があります)、真実を知った桐乃。大好きだったお兄ちゃんと、実は血の繋がりがなかった。距離のとり方がわからず、挙動不審になる桐乃。その妙に色気づいたような対応に、京介は兄として気持ち悪さを感じて、何かの暴言をはく。これが今巻の

「あのときは気持ち悪いみたいな顔したくせに! なんでいまさら! いまさら! そんなこと言うのよ!」

 という台詞につながっていると考えられます。
 傷付いた桐乃は、京介を露骨に拒絶するようになる。京介はわけもわからないまま、これまで仲の悪い兄妹の関係に甘んじてきた……。ううん。すげえ綺麗にはまるなあ。
 「大好きだったお兄ちゃん」の部分がひっかかる方もおられるかも知れませんが、大体、お互いに大嫌いってことは、お互いに強い関心を持っているということの裏返しでもあります。何かの事件が起こる前は、物凄く仲が良かったんじゃないかとも考えられるわけです。実際、関係が修復されてみると、京介の主観はともかく、第三者からみたらベタベタ湿度の高い兄妹関係になっているわけですから、そういう可能性は高いといえるでしょう。
 また、京介に桐乃が生まれたころの記憶があることが、この非血縁説の障害となっていますが、これもこう考えればクリアできます。すなわち、『妹が実子で、兄のほうが養子、あるいは連れ子』であればよいのです。
 うひゃあ。なんだこの嵌まり様。もう非血縁としか考えられなくなってきました。

 さて、桐乃と京介に血の繋がりがないとすると、俄然桐乃エンドのハードルが低くなってくるわけですが、黒猫派たる私の反論としては、以下の二点があります。

 まず一つ目は、京介自身のモラルの問題です。たとえ事実として桐乃と血縁がなかったとしても、今さら京介は桐乃を女としてみられないんじゃないか、ということです。京介はこれまで、心の底から桐乃を実の妹だと信じてきたわけで、その強固な意識は変えようがないんじゃないかと思います。事実はどうあれ、京介にとって、桐乃は大事な妹であり、それはもはや動かせないと思うのです。

 もう一つは、昨日のエントリでも少しお話しましたが、最後のこの描写です。

この告白から数日後――
 俺と黒猫は、恋人になった。

 この『数日後』がなかったら、もっと不安になってたんですよ。確かに、物語の原則として、先行提示した情報は、覆すのが定石ですから。
 でも、京介はこの場では返事をしていない。これはつまり、この数日間に、まだ開示されていない物語があるということです。その帰結として、京介は黒猫と恋人になることを決断した。それだけは、確約されているのです。

 ……まあ、それでもその後、最終的にどうなったかはわからないわけですけど。
 ということで、黒猫派としても結構ゆらいでおります。そういう意味で今回MK2さんの提示してくれた図式の綺麗さは救いです。すがりたい。

 とまあ、こういうような話を書いていたところ、necolaus.netさんからトラックバックをいただきました。ありがとうございます。
 なるほど、確かにモラルを論拠にせずに解釈すると、色々苦しいですよね……。タイトル的にもメインヒロインが桐乃であるのは間違いないわけですし。

 でも一つだけ反論させてください。

 黒猫は、桐乃を奮い立たせるため、敢えて自らを犠牲にする覚悟を以て先に告白したのではないか

 これは違うかもしれません。
 7巻の黒猫のこの言葉が根拠です。

「結局私は、ある人を見習って、自分の欲求に素直になろうと決めたの。思い切り、欲張りになろうと決めた。……きっとあの女ならこんなとき、どちらかを諦めたりはしないでしょうから」

 ここで黒猫は桐乃も京介も両方取ると宣言しているからです。この決意はホンモノだと思います。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 22:29 | コメント (5) | トラックバック

[感想書籍]「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻感想

 いやびっくりですよ。
 何がって、あの例の事前ネタバレでも流れた一番最後の展開のことですけどね。
 あんまりびっくりして、死んでたブログが生き返りました。

 以下、ネタバレ満載でおおくりしますので、未読の方は回避推奨です。

 
 
 

 今回はまた随分とバランスを崩してきたなあ、というのが大きな印象です。
 このシリーズはこれまで、恋愛関係にせよ、友人関係にせよ、家族関係にせよ、決定的なひと言は言わずにまわしてきました。まあ、黒猫がキスはしてましたけど、あれも「呪い」という言い訳付きでした。
 誰もが自分の好意を相手に伝えることなくここまできたのは、お互いが臆病という言い訳の元、現状に甘んじていたから。何も言わなければ、少なくとも現在のポジションを失うことはないから。それが、京介を中心としたラブコメシステムを支えていました。

 最初に桐乃がそのバランスを崩してきたのは意外でした。二度の狂言彼氏騒ぎ、明らかにどちらも、京介の気持ちを量るためにやってますからね。正直、桐乃の気持ちというのは、妹としての好意にとどまるはずだと思っていたので、ここまでの行動に出てくるとは……意外でした。
 作中で桐乃自身も言っていますが、この桐乃の行動を触発したのは、麻奈実と黒猫の存在です。

「自分はっ! 自分はっ! 地味子とかっ……あの黒いのとかといちゃついてるくせに! 勝手なこというなっ!」

 でもって、この次に、桐乃は気になることを言っています。

「あのときは気持ち悪いみたいな顔したくせに! なんでいまさら! いまさら! そんなこと言うのよ!」

 『あのとき』……普通に考えれば、7巻前半の京介とのデート、最後の口論のことを指すような気がしますが、良く考えてみるとちょっとおかしい。

「せっかく俺が嫌々協力してやったっつーのによ」
「おまえの彼氏役なんざ、もう二度とごめんだね」

 桐乃を怒らせたと思われる京介の台詞はこのあたり。ウザ顔はしていそうですが、嫌悪感をみせているシーンではなさそうです。
 更に『いまさら』という言葉も気になります。『いまさら』という言葉には、もうある程度古い過去のことで、しかも取り返しがつかない後悔のニュアンスがあると思います。……どうも、あの未回収の伏線『押入れの中のまだ見せられない秘密』がからんでいるような気がします。

 今回、『妹の彼氏』という存在をテーマに、兄妹がぶつかったわけですが、恐らく次は、この構図がそのまま反転するものと思われます。すなわち『兄の彼女』。桐乃のほうについては、恐らく最後の長電話で、これからする黒猫の告白について聞かされていると思うので、ある程度は冷静に対処してくると思いますが、問題は麻奈実ですね。
 京介にとって麻奈実とはどういう存在なのか。京介が常に軽く扱ってきた麻奈実ですが、それでいて麻奈実に彼氏が、なんていう話になると不機嫌になったりして、独占欲だけは発揮してきました。
 思うに、京介にとって麻奈実というのは、妹かつ姉のような存在だったんじゃないかと思うんですよね。今回見せた桐乃への執着と近い意味で、麻奈実にも執着してきた。でも麻奈実のほうはそんな気持ちからは一歩も二歩も踏み込んでいるわけで……このすれ違いが、トラブルを生まずにはおかない。これに桐乃との過去もあわせて、京介はこれまでのツケをまとめて払わされる、手痛いしっぺ返しをくらうことでしょう。……あやせと麻奈実とのつながりが、今回わざわざ示唆されたことも考えると、更に恐ろしいことになる可能性も……。

この告白から数日後――
 俺と黒猫は、恋人になった。

 数日後っていうのがポイントですよね。京介はこの場ではOKしていない。恐らくこの間のすったもんだが、次巻で描かれることでしょう。

 ――まあ、黒猫派としては願ってもない展開なわけですが、あまりにも都合が良すぎて怖い面もあります。この期に及んで最終的に黒猫振ったりしやがったら京介覚悟しやがれって感じですよ。
 ようやく執筆が始まったかどうかというところであるようなので、まだ先でしょうけど、今から次の巻の発売が待ち遠しくてたまりません。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉 ((電撃文庫))俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉 ((電撃文庫))
伏見 つかさ かんざき ひろ

アスキー・メディアワークス 2010-11-10
売り上げランキング : 2

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:34 | コメント (2) | トラックバック

2010年2月28日

[書籍]【俺の妹が】黒猫邪気眼問題【こんなに可愛いわけがない】(ネタバレ)【俺の妹が】黒猫邪気眼問題【こんなに可愛いわけがない】(ネタバレ)

 前のエントリの続きみたいな感じになりますが、『俺の妹』に登場する黒猫というキャラクタのリアリティについて、ちょっと取り上げてみたいと思います。

 実は、私は最初違和感なかったんですが、黒猫の邪気眼ぷりについて、どうもうそくさい、との意見があることを知りました。
 ……言われてみればその通り。
『頭のいい娘であるはずの黒猫が、あんな現実離れした言動をとるのはおかしい』
 確かにその解釈には説得力があります。

 でも私には、指摘を受けるまでそういう違和感が全くなかった。何故か。
 ……恐らくそれは、私自身が割と邪気眼な中高生だったせいだと思われますw
 ――詳しく話すのは自爆過ぎるので避けますが。

 ……あ、ちなみにここで、邪気眼とは『現実世界とはかけはなれた厨設定を、現実の中に持ち込んでしまうこと』といったあたりに定義を置くとします。

 とにかく、そんな私の個人的な感触として、邪気眼の有無と頭の良さには関係がないのではないか、という考えを持っています。
 自分の周りを見渡しても、例えば東大京大、六大学あたりの高学歴な人間であるからといって、その小中高生時代が邪気眼と無関係とは限りません(無論、高学歴が頭の良さと直結するわけではありませんが、全くの無相関ということもないと思うのでここではその議論は置きます)。

 さてここで、人は何故邪気眼になるのかを考えてみます。
 邪気眼というのは、その設定の特異性ばかりが目を引きますが、それらは突然生じたものではなく、元々はある特定の作品の設定です。例を挙げるなら……まあ世代にも性別にもよるでしょうが、幽々白書であったり、ロードス島戦記であったり、あるいはドラゴンボール、最近ならゼロの使い魔とか、ワンピースなんかも入るかもしれません。……で、黒猫にとってのそれが、恐らく『マスケラ』なんだと思います。

 普通の人は面白い物語に触れても「ああ、面白かった」という程度で終わってしまう方が多いでしょう。まあせいぜい、ハリウッドアクション映画を観たあと、しばらく自分が強くなったような気がしたりとか、その程度だと思います。

 でも、ある種の業が深い人間はそれでは済みません。描かれた物語、登場人物の姿を全てしゃぶりつくしても飽き足らず、その作品世界そのものを自分の中に取り込もうとします。描かれたエピソードの裏側はどうなっていたのか、描かれなかった人間関係はどうだったのか、その後、本当に世界は平和になったのか、などなど。そして発想を膨らましていく中で、世界に破綻を見つけると、無理のない新設定を考え、物語をつむぎ出して修復します。こうして妄想はとどまるところを知らずに拡大していきます。当然、世界観も人物像も、どんどんリアリティを増していきます。

 ついに没入が臨界点を越えると、こういうことを考えるようになります。
『もしかすると知らないだけで、この世界のどこかに、本当に彼らはいるんじゃないだろうか』
『もしかすると知らないだけで、ああいう超能力が、この世界にもあるんじゃないだろうか』
 ……邪気眼、一丁上がり、であります。

 この辺、黒猫が同人活動をしているというあたりを含めて、非常にリアリティを感じるんですよね。
 でもって、大好きなその世界観にひっぱられて、オリジナルを書いてもそっち方向から離れられなくなってしまうのです。特に若い頃は。

 ……とまあ、以上のようなことから、黒猫はああいう業の深い娘になっているのではないかと考える次第です。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 04:06 | コメント (0) | トラックバック

2010年2月22日

[感想書籍]『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(ネタバレあり)『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(ネタバレあり)

 誠に失礼ながら、侮っていた。というのが正直な感想である。
 一応このお話の概略は人づてに聞いて知っていた。

曰く、妹がかわいい話である。
曰く、妹はオタクであり、それを隠している。
曰く、有名ニュースサイトの名前が出てきて、発売当初各サイト大騒ぎしていた。
などなど。

 それら風評を耳にするにつけ『なんとなく内容は想像つくなあ』『まあ読めば面白いのだろうけど、なんか色々あざとい気もするしなあ』などと思い、結局手を出さずにここまできた。
 そんな中、初音ミクの絵と曲から入って、挿絵のかんざきひろ氏のファンになり、コミケで本を買った余勢を駆って、自分の中で再びクローズアップされてきたのが、本作「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」だったのだ。

 ということで、買って、実際に読んでみた。
 当初の見込みとしては、お約束満載の萌え小説だろうと思っていた。正直、あまり好きなタイプの話じゃないかも、と思っていた。……でも、全然違った。
 勿論、キャラ配置や設定をはじめ、いわゆるお約束的な道具立ては結構ふんだんに用意されている。その辺の印象は当初とそんなに違わない。しかし、それを使って描こうとしている部分、フォーカスがあたっている部分が全く違った。
 それは、ひと言で言うなら『現代のオタクを巡る諸問題と、そこに生きるオタクの姿』といったものだと思う。
 隠れオタクと一般人とのコミュニケーション問題であったり、いわゆる児ポ的な問題であったり、同人活動であったり、才能と嫉妬の問題であったり、オタクであること自体の恥ずかしさであったり。切り口は各巻様々だが、我々にとって結構重いテーマが、明るく、しかし真摯に描かれている。
 そこに描かれる登場人物の姿も魅力的だ。彼らはオタク非オタクを問わず、思想的な対立はあっても、皆根本的には誠実で優しい。こだわりや信条、コンプレックスや偏見で時に強く対立することはあっても、皆最終的には相手の話を聞く耳を持っている。
 主人公は実は非オタなのだが、彼の持つ眼差しの優しさも素晴らしいと思う。彼にはどんなに素直じゃない人間が相手でも、自然にその良さを見抜ける目がある。それなのになんで妹のことだけ散々延々と誤解し続けてたんだとも思うが、まあ身近すぎたんだろうし、その辺は語られないエピソードがありそうだ。特にアルバムのあたりに。
 まあ正直なところ、現実はそんなに甘くねえですよとも思わんこともない。世の中そんないい人ばっかりではないし。……でも、それはそれとして、主人公を囲む、オタクや非オタクたちの優しい世界が、私は嫌いじゃない。

 とりあえず、気配り超人こと沙織の正体と、完全な一人勝ちかと思われたヒロインレースに、最新刊で突然大外から物凄い足でまくってきた黒猫の今後が気になる作品です。

 あ、一つ書き忘れたけど、タイトルから連想されるような「妹の正ヒロイン昇格」だけは絶対無い作品です。どう転がっても互いの甘えから抜け出せずに不満を溜め込んだり、当り散らしたり、すれ違ったりしてしまう。家族としての兄妹の距離感の描き方も、この作品の見事な点だと思います。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
伏見 つかさ かんざき ひろ

アスキーメディアワークス 2008-08-10
売り上げランキング : 2062

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 02:20 | コメント (2) | トラックバック

2009年11月 7日

[書籍]ラノベ話ラノベ話

 最近追っている連載が完結するなどして段々減ってきたので、いくつか増やしてみました。1つは鋼殻のレギオス。たまたま観たアニメでフェリがとっても無表情でかわいかったからです。もう1つが影執事マルクシリーズ。やまたさんが薦めていたからです。

 鋼殻のレギオスについては、特異な世界観が面白いですね。
 脚がいっぱいある都市が荒野をガションガション歩く姿は想像するだけで妙に楽しい。
 最初は異世界に生きるモテ天才を描いていく話かと思っていたのですが、彼を含めた武芸者と呼ばれる戦闘員全員が『勁脈』という人間にはない器官を持つ『人から生じながらも人でない』存在であるとされており、さりげない断絶が示唆されていたり、またこの世界自体が創られたものである可能性も示されていて異世界ものですらない可能性があり、そう話は単純ではないようです。(現在10巻を読了した時点の認識)
 とりあえず言いたいことはレイフォンモテすぎでありフェリにしないならもげろ。

 影執事はタイトルで物凄く損をしていると思います。正直お薦めの言葉がなければ手を出さなかったでしょうね。
 ところで、自信をもって襲撃→返り討ち完敗→絶対の忠誠の流れにどうも既視感があったんですが、これ東方の咲夜の縁起のパターンに近いですね。そういえば。
 よくある俺様最強主様最高執事ものではなくて、影執事くん結構負けるしかなり不幸です。彼の強さの理由、彼が鈍感な理由もきちんと用意されており、非常に丁寧な語り口です。たくさんキャラが出てきて群像劇的でもあり、しかも主人公を中心とした放射状の人間関係ではなく、脇キャラクタ相互の相関関係もかなり複雑なものになっていて面白いです。

 更に、15X24も話題になっていたので買ってみました。『もっと評価されるべき』的な取り上げられ方をよくされていたので、なんとなく新人さんかしらと思っていたのですが……著者新城カズマ……? ――って蓬莱学園の人じゃんか!w そりゃ凝った話に決まってるわ。これはこれから読みます。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:08 | コメント (0) | トラックバック

2009年3月21日

[書籍]もうとらドラ最終巻出ちゃったけど、再読は継続する試み その5もうとらドラ最終巻出ちゃったけど、再読は継続する試み その5

 さて。
 まだ十巻読んでません。とらドラ関連のサイトはどこにもいけません。
 おれ、この感想書き終えたら、十巻読むんだ……。
 では、はじめたいと思います。例によってネタバレ全開ですので、ご注意くださいね。

 
 
 
 


 今回は3巻読了まで。この巻は正直難しい。

 前巻ラストシーン、竜児と亜美の現場目撃からの大河の怒り継続中なわけだが、大河のこの激烈な反応っぷりは一体何だろう。怒りも言動も理不尽すぎて初読時はついていけなかった。その後の亜美との竜児と過ごす夏休みを賭けての水泳対決まで含め、この巻のテーマは、大河と竜児の互いの気持ちということなんだろう。

 多分、大河のあの執拗なまでの怒りは、自分と竜児との関係を、簡単な分かりやすい言葉で決め付けられるのが嫌だったのだろうと思う。確かに一緒に生活しているし、一緒にご飯を食べている。弁当も作ってもらっているし、家事全般もやってもらっている。それが常の友達の、特に男友達のあり方とはかけ離れているのはわかる。でも、そんな関係になんと名前をつければいいのか。
 好意を持っている、好きだと型にはめてしまうのは簡単だ。でも大河が竜児に対して持っている感情は、北村に対して抱いていたそれとは違いすぎる。ふわふわと、わきたつものがない。憧憬も不安も決定的に欠けている。
 代わりにあるのは、安心だ。どんなにみっともない顔を見せても、どんなにドジな姿を見せてもいい。奴は見捨てない。かえって喜んで世話をやいてくる。だから気負わず、自然体でいられる。大河にとっての竜児の前というのはそういう場所なんだと思う。
 では、そういう関係は何なのか。家族といってしまうには、大河にとって家族という存在が遠すぎる。じゃあなんだ。なんでもない。わからない。わからないけれど、とにかく居心地のいい場所。そんなあいまいなごまかし。
 一方で竜児の側もごまかしている。大河という存在は何なのか。それは本当に家族愛なのか。竜児はあたしのもんだと言われて嬉しかったのは何故か。否定されて腹が立ったのは何故なのか。答えから目をそむけたまま、思う存分世話を焼かせてもらえる居心地のよさにやっぱり甘えている。
 二人とも、特に大河は答えを出せない。出してしまえば確実に何かが変わる。少なくとも、現在二人の関係を成立させている大前提『互いの恋を応援する』が崩壊する。そうしたら大河はまた独りになってしまうかもしれない。竜児はまた、家以外の居場所を失ってしまうかもしれない。

 不安も、胸の高鳴りもない。ただ、一緒にいて安心する。空気のように必要とする。かけがえがないと執着する。そんな存在。
 それは確かに恋ではないだろう。

 でも、それよりむしろ一歩進んで、愛情ではあるんじゃないかい? 高校生からすると想像から遠すぎるかもしれないけれど、例えば夫婦のような。
 そう大河に言ったら……まあ、確実に殴られると思う。やっぱり。


 ところでやっちゃんが、大河は本当に嫌いな人とは同じ皿からご飯を食べないといっていたけど、大河はこのときすでに亜美と一緒にご飯食べられると思う。2度溺れた大河を2度とも本気で心配する亜美の姿を見ていて、なんとなくそう思った。
 そして、ラストで亜美の別荘の計画に大河が割り込んできたとき、確信した。
 多分、亜美が本当に大河の参加を受け入れた決め手は、大河の『いいでしょ? 私にも見せて。私も一緒に行きたいもん』の台詞だったと思うから。
 大河って、自分に向けられる感情に敏感だから、亜美のこの好意は、伝わっていると思うのだ。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:20 | コメント (0) | トラックバック

2009年3月 5日

[書籍]もうとらドラ最終巻出ちゃったけど、再読は継続する試み その4もうとらドラ最終巻出ちゃったけど、再読は継続する試み その4

 ……もう最終巻出ちゃったので、タイトルも変わっちゃいました。再読はこれからも続けたいと思います。
 問題はすでに手元にある10巻をどうするか。
 ……まあ、頃合を見て読みます。
 では、はじめたいと思います。例によってネタバレ全開ですので、ご注意くださいね。

 
 
 
 

 さあ、今回は二巻読了まで。

 初読時に亜美が登場した時は戦慄したものだ。お世辞にも教室内政治に長けているとはいえない竜児・大河が、恐らく相当えげつない芸能の世界で天使の仮面を磨いてきた亜美に、どれほど酷い目にあわされることか、と。
 読み進めながら、妄想は加速する。亜美は大河を追い落とそうと思えば、早速出来た取り巻きを利用して、いくらでも汚い手が使える。例えば大河の乱暴についての悪い噂を流して孤立させたり(その信憑性は高いなんてもんじゃなかっただろう)、あるいは大河の弱点(家族の問題とか、北村への好意とか)を調査して責め上げたり。それこそもっと陰湿に、教師たちの大河の印象を悪くさせる工作を仕掛けたりもできる。……などと、私は脳内に次々と自動展開される今後の陰惨な展開に、勝手に恐怖しながら読んでいた。

 でも亜美は、性悪ではあっても、卑怯者ではなかった。そういうことは一切せず、というか念頭にすらなく、あくまで亜美個人として大河につっかかってきた。むしろ下腹晒し上げ攻撃といい、物まねメドレー百連発といい、大河実乃梨側のほうが世っぽど人でなしだったくらいだ(笑

 実のところ亜美は八方破れだ。
 竜児が自分の本性に最初から気付いていることもわからなかったし、そもそも幼馴染の友達に本性を晒して無駄に敵を作るなんてうかつすぎる。つまり、本来の性悪亜美は、実は結構計算下手な、ストレートな性格なんだろう。
 そんな性悪亜美は、モデルの仕事を通じて、次第に居場所を失っていった。自分がちょっと可愛い様子を見せれば、みんなが熱狂する。みんなが亜美のことを好きだという。でもそう言われれば言われるほど、本来の性悪亜美の部分は影に押し込められていかざるを得ない。
 ストーカー男は、そんなモデルとしての可愛い亜美ちゃんが意識する、ファンの目の象徴だったのだろう。どこにいても、どんな時も、じっとりと自分を刺し貫く視線。いつ正体を写真に撮られてばらまかれるか、心休まる暇もなかったのだと思う。亜美は、性悪な自分がバレれば、仕事を、今の自分を失ってしまうと思っていたから。
 そんな視線から、性悪亜美はいつも逃げ回っていた。逃げて逃げて、可愛い亜美ちゃん像で塗り固めたお城の中に逃げ込んで、震えていた。

 でも亜美が八方破れなら大河は三十二方破れくらいである。誰の目も気にしない(北村以外)。気に入らなければ吠える、噛み付く、引き裂く。亜美が苦労を重ね、計算して取り繕っている体面なんて、ハナから全く気にしていない。亜美の態度にむかつきまくった大河は、そんな可愛い亜美ちゃんのお城を、あっさりとぶちこわしてしまった。
 でも、お城は中に居る者を守る鎧であるとともに、囚われの性悪チワワを閉じ込める檻でもあった。ぶち壊された檻から出ることができたから、ストーカーに噛み付くこともできたのだ。恐怖の涙に濡れながらも。

 檻から出て、初めて自分の現実と戦った亜美の目の前に、竜児がいた。亜美にとって最も与し易い相手のはずの、同年代の男子でありながら、自分の思い通りにならない存在。多分初めて、亜美が対等と思えた同年代の男子。……これは、一種の刷り込みだったのかもしれない。殻を破って、目を開いた亜美の前に、彼がいたのだ。

 でも、この時すでに亜美の入り込む余地は……。うう。
 最終巻、亜美の決着はどういう形でついてるんでしょうね。楽しみなような、怖いような。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 21:48 | コメント (0) | トラックバック

2009年3月 4日

[書籍]もうすぐとらドラ完結するらしいからそれまでに再読する試み その3もうすぐとらドラ完結するらしいからそれまでに再読する試み その3

 時間があいてしまいましたが、とらドラ再読感想第三回目です。例によってネタバレ満載ですのでご注意のほどを。

 
 
 
 


 あ、最初にお詫びと訂正を。
 前回のインコちゃんの件ですが、竜児が卵からかえしたという描写があるというご指摘をいただきました。……いやはやお恥ずかしい。

 さて、ようやく1巻の最後まで。

 最初に、クッキー事件の最後で出てきた、やっちゃんの『薄ーい超能力』の件。
 読み返すまで全く忘れていたんだけど、これは一体何なんだろう。『やっちゃんから受け継いだ超能力のおかげで大河を助けることができた』という形で、特にその後も否定されていない。ここだけなんかファンタジー文脈で違和感がある。
 何らかの比喩として最終巻で回収されるのかな?

 でもって、やっぱり1巻といえば、大河の告白。

 ――竜児、わかってない。

 どうしてあれだけ不器用な大河が、苦労しながらも、真っ直ぐに告白することができたのか。
 今後、なんだかんだあるけど、このときを除いて、大河は告白に成功していない。なんでこの時だけ告白できたのか。しかも、たったひとりで。

 電柱をやっつけた後、大河は竜児を解放した。あの時、大河は竜児がみたように、自分を囲む敵と戦ってもいただろうけど、もう一つ、大きなものを殺したんだと思う。

 それは、自分の中の竜児という存在だ。

 大河にとって竜児は理解不能な存在だったはずだ。自分が何をやらかそうとも、どこかしら弱っている部分を見つけてきて、ただひたすらに世話を焼いてくる。しかも、明らかに邪念がない。利己的な人間ばかりを見てきた大河には本当に理解不能だったろう。
 でも、大河にはそんな父親のような、兄のような、あるいは弟のような、いや、それらどれでもなく、竜児のような存在が必要だった。
 つきはなしてもなじっても、そばに居てくれる竜児が必要だった。
 威嚇しなくても怖くない、竜児が必要だった。

 きっとそれは恋なんかよりも切実だった。

 そんな自分の中の竜児を切り捨てた上で、決めた覚悟だから、大河は失敗するわけにはいかなかった。身を切るような喪失感が、恋の熱でゆだりそうになる大河の頭を覚ましていた。そう思う。
 だからあそこで、あふれ出してしまったのだ。よりにもよって北村の目の前で。
 喪った竜児が自分にとってどんな存在だったのかが、口から噴き出してしまったんだと思う。

 竜児、わかってない。

 そして、みのりんは多分、わかってた。

 ここから、すでにボタンのかけ違いがはじまっていたんだなあ……。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 04:06 | コメント (0) | トラックバック

2009年2月22日

[書籍]もうすぐとらドラ完結するらしいからそれまでに再読する試み その2もうすぐとらドラ完結するらしいからそれまでに再読する試み その2

 はい、では第二回目いきます。ネタバレしまくりなので、どうかご注意を。

 
 
 
 

 今日はチャーハン食い終わってから、翌朝登校時実乃梨と出会って竜児が置いていかれるまで。

 まずは、チャーハンのシーン。
 ひととおり食い終わって人心地ついてから、大河は、さぞかし驚いたんだろうなあと思う。
 多分大河は、これまで他人から無償で何かをしてもらうことは、ほとんどなかったんじゃなかろうか。
 無論生活費は提供されているし、住環境だって、もしかするとあの山のような衣類だって、あの父親から提供されたものかもしれない。
 でも、そういうのと、竜児がしてくれたことは違う。あれで大河は、それなりに常識をわきまえているので、深夜木刀持って襲撃をかけるような自分が、(討ち漏らせば(笑)
)通報され、今後も竜児に敵視されるであろうことは覚悟して臨んでいるはずである。
 それだけ無茶苦茶やらかした自分を、竜児はちゃんと「見て」、彼なりに大河にとって必要だと思うものを提供してくれた。チャーハンもそうだし、恥ずかしい恋愛話もそうだ。
 後のクリスマスエピソードにおいてはっきりするが、大河はいつだって誰かに見ていてほしかった。竜児のくれたものは、父親からのそれのような金額と量で計ることのできるものじゃない。彼はあの夜、大河を見ていたし、大河もその眼差しを感じたはずだ。しかも、打算なく。……その計算のなさは、竜児お前頭悪いんじゃないかと思うほどである(笑)
 木刀で夜襲してくる襲撃犯を手料理で歓待して帰すなぞ、全くもってお人よしにもほどがある。そもそもそんな対処で、普通襲撃犯は納得しないし帰らない。そんな底抜けのお人よしが竜児なのだ。

 だから大河は、竜児の言うことを信じた。
 ラブレターには中身が入っていなかったこと。
 封が開いてしまったのは偶然だったということ。
 そんなザマを北村に見られなくてよかったということ。
 竜児がこの事件を決して北村に話したりはしないこと。
 
 そして最後に――竜児が顔に似合わぬ、いい奴だということを。

 だから――これは多分、この時点では意識的にではないけど――身近に置こうとした。敵ばかりの世界で、背中を見せられるかもしれない存在を見つけたから。
 そのためのポジションが『犬』ってあたりが、大河の哀しい不器用さを象徴しているとも思うけど。

 そしてこの事件は、高須家にひとつの痕跡を残した。
 襖に咲いた薄桃色の便箋の桜の花。
 それはいつまでも竜児と大河が本当の意味で出会ったこの春の夜を語り続けるはずで、この物語の終わりに、これがどんな意味を持つのか。非常に気になる。
 特にやっちゃんにとって。


 そして、大河の部屋を初めて訪れるシーン。
 でかい部屋のでかいベッドに、まるで放置された人形のように転がる大河。

 インコちゃんという存在が今まで非常に謎だったんだけど、このシーンでそんな大河を見つめる竜児の視線をなぞっていると、なんとなくインコちゃんが高須家の一員になった様子が見えてきた気がする。

 要するにきっと、インコちゃんはペットショップ中でぶっちぎり一番ぶさいくな生き物だったんだろう。当然、店員からの愛情も受けられず、適当に世話をされ、新聞紙やらエサやらフンやらにまみれて、鳥カゴの床に、ゴミのように転がっていたんじゃなかろうか。
 多分、竜児はそういうのは放っておけないのだ。
 これは、綺麗ごとの話ではない。前回もお話したように、竜児とやっちゃんは、互いに助け合ってこれまで生きてきた。竜児にとって、生活力のないやっちゃんを卓越した家事能力で助けるというのは、生きがい、というより、竜児という人間の価値そのものだと信じているんじゃないかと思う。
 本当に小さな子どもの頃、竜児は働くことができなかった。簡単な家事だってできなかった。無論お金を稼ぐこともできないし、疲れ果てて帰ってくる母のために、できることは何もなかった。そんな口惜しさや、常に先行きの薄暗い二人の生活と、戦うための力として、竜児は家事能力を身に着けていったんだと思う。
 竜児にとって誰かを世話し、役に立つということは、生きることそのものだったのだ。

 だから竜児は、本当に打算なく、ほとんど反射的に、大河に手をさしのべることができた。
 そんな『白い』手が、大河には必要だったんだと思う。


 ……こんな調子でやってたら、絶対に最終巻発売に間に合わないことに気付いた……。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 04:15 | コメント (0) | トラックバック

2009年2月21日

[書籍]もうすぐとらドラ完結するらしいからそれまでに再読する試み その1もうすぐとらドラ完結するらしいからそれまでに再読する試み その1

 相変わらず思いつきで運営されているこのサイト、最近のテーマはとらドラ!です。
 とはいっても、アニメ版の話ではなく、小説版の話。当然ネタバレ全開でお贈りする予定なので、今後、読む予定がおありの方はご退避を。
 ……しかし、じっくり読んでいると、全然進まないねえ。

 
 
 
 

 とりあえず、1巻の大河チャーハン祭りまで。

 初読の時は、大河、実乃梨、北村、竜児の関係ばかりに気を取られていたけど、9巻のあの展開を知った上で読むと、冒頭からえらい示唆的な話だなあと思う。

 すなわち、この日は、竜児、高校二年生の始業式の朝。
 母泰子ことやっちゃんが、迎えることができなかった朝。

 ……冒頭から、これは自立の話なんだなあと、なんだかしみじみしてしまいましたとさ。

 多分、高須家を見つめる周囲の視線は相当厳しかっただろう。水商売の母子家庭。でもって息子はヤクザなご面相。どんな悪い噂も立て放題であり、ムショ暮らしとも言われる父親の存在により裏づけされた、それら噂の悪質さは、恐らく教室におけるそれの比ではないはずだ。
 やっちゃんはあんな感じのくにゃくにゃダメな人だが、それでも竜児を、世間の冷たい視線と、銭金の問題から、社会的な意味と経済的な意味で守りとおしてここまで育ててきた。竜児をあんないいヤツに育て上げているのだ。家の外では立派な親だったのである。
 反面、家庭内については、竜児が逆にやっちゃんを支えてきたはずだ。ずっと我々がみてきたように。
 要するに高須家は、外から見たら母子家庭。中から見たら父子家庭だったんだと思う。
 それは見事なもたれあい。竜児はやっちゃんにとって、失踪した夫の役割すら担っていたんじゃないかとも思う。

 それが、この朝を始まりとしてゆっくりと崩壊していく。

 恐らく、実乃梨への恋で、それが兆し、大河との出会いで、それが始まったんじゃなかろうか。要するに竜児は、『外』に、愛情を注ぐ対象を得た。雛鳥は、居場所を得、大空を知ったのだ。

 などと、がつがつとチャーハンを食い続ける大河の様子を読みながら、思った次第。

 ……これは本当にとらドラ!の感想なんだろうか……(笑
 ま、まあ今日のところはここまで、ということで。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 02:10 | トラックバック

2008年5月 7日

[書籍]秋山瑞人、新刊!?秋山瑞人、新刊!?

ちょっとちょっとなにこれ!?!!

私設あまぞんレーダーにひっかかってきたんですけどね。

龍盤七朝DRAGONBUSTER 1 (1) (電撃文庫 あ 8-13)
龍盤七朝DRAGONBUSTER 1 (1) (電撃文庫 あ 8-13)秋山 瑞人

アスキー・メディアワークス 2008-05-10
売り上げランキング : 129


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

……は? あの、あれ?
ミナミノミナミノは……?(笑

まあ、なんにしろ秋山さんの新作が読めるなら非常に喜ばしいです。
あと、驚きといえばこういうのも出るそうで。

A君(17)の戦争-I,THE TYCOON?-1 (角川コミックス ドラゴンJr. 124-1)
A君(17)の戦争-I,THE TYCOON?-1 (角川コミックス ドラゴンJr. 124-1)豪屋 大介 松本 規之

富士見書房 2008-05-08
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

え、A君!?
漫画化はいいんですが、ノベルの続き、出るんですか……?
出るんなら凄く嬉しいんですが……。

でもってもちろんレギュラーでチェックしているこれも出るわけですよ。

ガンパレード・マーチ九州奪還 2 (2) (電撃文庫 J 17-20)
ガンパレード・マーチ九州奪還 2 (2) (電撃文庫 J 17-20)榊 涼介

アスキー・メディアワークス 2008-05-10
売り上げランキング : 100


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ルイズの続きも出るようだし、今月はサプライズ込みで盛りだくさんだわ……。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 20:48 | コメント (3) | トラックバック

2007年10月12日

[書籍]マリア様がみてる「薔薇の花かんむり」マリア様がみてる「薔薇の花かんむり」

ついに瞳子が。
『チェリーブロッサム』での初登場から実に23冊目ですってよ奥様。
というか、瞳子が登場する前の本が8冊しかないことを考えると気が遠くなりやすが、ついにやっとようやく瞳子が祐巳の妹に……!
作者の今野さんという方は決して寡作ではないんだけど、とにかく細かく細かく丁寧に伏線を回収していく方で、上手いなあと思う反面、どうしても展開がゆるやかになるので正直じれったくも。というか、じれったすぎた。
まあ、なんというか、ようやくほっとしたというのが一番強いっすねー。

よかったよかった。

マリア様がみてる 薔薇の花かんむり (コバルト文庫 こ 7-55)マリア様がみてる 薔薇の花かんむり (コバルト文庫 こ 7-55)
今野 緒雪

集英社 2007-10-02
売り上げランキング : 18

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:10 | コメント (0) | トラックバック

2007年10月 9日

[書籍]ガンパレードマーチ 山口防衛戦4ガンパレードマーチ 山口防衛戦4

さきほど読了。

ネタバレ事故防止にちょびっと空行。

 
 

いや、ついに終わりましたね山口防衛戦。
最終的には、山口防衛戦というよりも、本州防衛戦的な意味になってましたね。最後まで熱かった。
元々原作であるガンパレードマーチも凄くキャラの多い話ですが、現時点でキャラ数が2倍以上……いや、もしかすると3倍くらいにはなってるかもしれません。これに、オーケストラ1〜3章の関係者を入れるとマジえらいことに……。
なんか前にも書いた気がしますが、これだけの人数をぶんまわしてストーリーをまわせるっていうのはもうそれだけで尊敬に値しますし、それでいて面白いってんだからホント困る。
オリキャラで膨れ上がっているわけですから、原作ファンを萎えさせるのが普通だと思うんですが、そうはなってないんですよね、このシリーズは。

今まで、5121小隊は戦術的な勝利を手にすることはあっても、幻獣に蹂躙される人類という大局をくつがえすことは一度もできていなかったんですよね。
そりゃまあそうです。たとえ一握りの英雄がいたとしても、大規模戦闘においては、戦局全体を覆すほどの影響力を持つことは難しい。そこを、5121部隊以外の、普通の兵士や学兵たちの戦いを成長を描くことによって、ついに始まった人類の反転攻勢を見事に描いています。

さて、この続きは本当に見逃せません。
何しろ、一度大敗し、多大な被害を出して撤退を余儀なくされた、九州奪還がテーマなわけでしょう?

盛り上がらないわけがないじゃないですかっ!

ガンパレード・マーチ山口防衛戦 4 (4) (電撃文庫 J 17-18)
ガンパレード・マーチ山口防衛戦 4 (4) (電撃文庫 J 17-18)榊 涼介

メディアワークス 2007-10
売り上げランキング : 121

おすすめ平均 star
star続きますよね?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 18:06 | コメント (0) | トラックバック

2007年3月22日

[書籍]榊さんのガンパレ話榊さんのガンパレ話

先日榊涼介氏のガンパレードマーチの新刊を買ってきました。
山口防衛戦だそうです。
もう、嬉しくて。

いやね。先のシリーズが自然休戦を迎えてやけに切り良く終わり、オーケストラのノベライズが始まってしまったので、もう続刊はないだろうと残念に思っていたんですよ。ほんと良かった。

もちろんオーケストラのノベライズも全部読んでます。面白かったんですけど、いかんせん、ガンパレードマーチのキャラクタたちとは思い入れが違いすぎるのですよね。
……というか、アニメを白の章の途中でみなくなってしまい、ゲームも結局白しかやっていないという身としては、読んでていささか大変でした。キャラが出てくるたびに巻頭のカラーページで確認しながら読んでましたからね。それでも面白いんだからすごいんですが。
だって榊さん。サービス精神旺盛なことに、オーケストラは各章1巻完結ぽいのに、全キャラ出して、しかも全員生き生きと動きまわらせちゃうんだもの。
緑の章や青の章は一切知らないのに、一気に読みきれちゃいましたよ。これは本当にすごいと思うです。

そんな榊さんのガンパレが再開したので非常に嬉しいのです。

でも、なかなか読み始められない。
ありません? 読むのが楽しみすぎると手を出せないという気分。

たのしみですよ。ふふふ。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 00:46 | コメント (0) | トラックバック

2006年6月30日

[書籍]ガンパレードオーケストラ-白の章-ガンパレードオーケストラ-白の章-

僕の中では見た瞬間に買う組み合わせというのがあって、この「ガンパレ+榊涼介氏」というのもそのうちの一つです。
これまで榊氏はガンパレ本編のノベライズをすすめてこられたわけですが、この本により、現在アニメおよびゲームで展開している「白の章」「緑の章」「青の章」のノベライズも担当してもらえる流れができたようで個人的に非常に喜ばしいです。

さて、この本自体のお話。
5121小隊のほうも、軍隊というよりは寄せ集めといった印象の強い部隊でしたが、今回の第108警護師団 石田小隊の寄せ集め度はその何倍も上です。
アニメ版ではこの辺、本当にヒドくて、低い士気・全体的な職務怠慢は言うに及ばず、作戦行動自体へのサボタージュやら、明白な命令無視、隊長である石田に対するいじめまがいの行為を一部隊員が延々と繰り返すなど、個人的にはサブタイトルである「青森ペンギン伝説」を「青森DQN伝説」に書き換えたいほどでした。
ゲーム版ではそのへんの要素が非常に薄くて安心したものでしたが、小説版ではアニメほどヒドくはないものの、一部隊員たちが当初石田に反感を持ったり、あわよくば更迭してやろうとする要素が取り込んであります。
ただこの辺、本当に上手いと思うんですけど、アニメでは個人的・感情的反発が主だったその動機が、自己保身に変わっているんですよね。
元々、この物語世界における青森という土地は幻獣との戦いの前線では全くなく、その後方もいいとこ後方。それゆえに、例えば補給線などの警備のための部隊や、練度の低い学兵の部隊が多く展開していたのですが、幻獣側の奇襲により、のんべんだらりと展開していたそれら警備部隊が、いきなり最前線部隊になってしまったという背景があったりします。……そういう状況なら、「懲罰を受けない程度に今までどおり落ちこぼれ部隊の名前に甘んじて、そのうち来る応援部隊の展開と、戦況の好転を待とう」と考える人間がいるのもある意味当然であり、それら隊員たちの反感も理解できました。良いアレンジだと思います。

おおまかな流れとしては、そういうばらばらな隊員たちの心を石田が持ち前のがむしゃらさと戦闘センスによってまとめあげていくお話なんですが、それだけには終わらず……まあネタバレは避けますが例えば「ラボ」、それをめぐる隊員たちの(ある意味ムチャクチャな)過去とか、「幻獣共生派」とか、「芝村閥をめぐる云々」とか、そういう難しい要素も巧みに取り入れられています。
旧作からのファンには嬉しいことに、5121小隊の面々も、結構登場したりします。それも、隠しキャラ扱いだったゲーム版とは異なり、かなり物語的にも重要な位置で、です。個人的には滝川×森が仲よさげに登場したあたりが最高でしたが、善行×原や茜大輔あたりもかなり登場します。この調子なら今後も、舞や厚志をはじめ、他の面々もかなり活躍しそうです。
しかし、森さん。
貴方が「下手に探ると事故死するから」って言うと物凄く説得力がありますね……。

ということで、今回の本も面白かったです。
……ただ、○○天国はどうかと思うわけですよ。ええ。(笑)

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 01:38 | コメント (0) | トラックバック

2006年5月24日

[書籍]涼宮ハルヒのいろいろ。涼宮ハルヒのいろいろ。

最近アニメで話題ですが、こないだ本屋で一気大人買いして、3日で一気読みしました。

すなわち。
憂鬱
溜息
退屈
消失
暴走
動揺
陰謀
憤慨
の既刊八冊です。

感想としては『……なんだ、面白いじゃん』です。それもかなり面白いと感じました。一気読みしたくらいですからね。
シリーズ開始当初、Web上で巻き起こった賛否両論については記憶に新しいところですが、それで敬遠していたのが非常にもったいなかったなあと思います。

確かに第一冊目、「涼宮ハルヒの憂鬱」の超トンデモ展開っぷりは、知らずに読んでいたらついていけなかった可能性が十二分にありますが、それを基本設定として受け入れてしまいさえすれば、普通にかなりの良作であると思います。伏線の回収も丁寧に行われていますし、巻を追うごとに感じられる、ハルヒさえ含めた登場人物の成長の過程なんかもとてもいい感じで伝わってきて好感が持てます。
まあ、彼らが背負っているトンデモ設定や、各事件に内包されているトンデモ理論の数々に着目してイチャモンをつけることはいくらでもできるでしょうけど、僕はそういうのには全く興味がないのでパスです。
お気に入りは第四巻「涼宮ハルヒの消失」です。ここまで典型的な巻き込まれ型主人公だったキョンが、SOS団の一員として、またハルヒのパートナーとして自覚し、活躍することになるきっかけのお話。失ったSOS団をキョンが自分の意思で取り戻すお話。……こういうの好きなんですよね。これ以前にも萌芽はありましたが、この事件をきっかけとして、SOS団が『ハルヒ接待集団』から完全に変質をとげ、SOS団員相互のつながりと絆が強く前面に出てくるようになるのが良いのです。……まあ、互いに利害関係を別にする勢力の人間ですから、単純な友情(あるいは愛情)劇にはならず、やっぱりどこかに腹の探り合い的な緊張感が抜けきらないですが、そこもまた良い。
また、この巻から我らが長門さんの魅力が炸裂したのも見逃せないポイントです。ていうか長門さん最高。
あと鶴屋さんも良いね!

最新刊では、SOS団とその団員が所属する各勢力に対抗する『敵』の存在なども示唆され、今後が楽しみです。
ということで、ひさしぶりにシリーズ買い決定作となりました。うふふ。

【このエントリにはタグがつけられていません】

投稿者 文月そら : 00:46 | コメント (4) | トラックバック

全部読む |  1  |  2  |  3  |  4