文月の過去にっき

姉弟間の依存関係が弟の側で性的な欲求に転じてしまった悲劇。
弟くんはほとんど正気を失っている（ように第三者にはみえる）ので、引き離したのは賢明だったと思います。というか、レ○プ狙ってるような相手に話し合いが通じるわけがないので、それしかないとも。
恋愛状態って勇気になることありますよね。特に信じるものがなくなって、足元がふらふらだった円華先輩にとって、何時の間にか「契約」を超えて片想いしていた夷月に受け入れてもらえたことは、大きな自己肯定のきっかけになったはずです。
弟くんのボタンのかけちがいの始まりは、揺らぐ姉の背中にあったんだと思います。愛する姉が動揺している、なんとか支えになりたい、という焦燥がねじれてしまった。姉と自分、二人分の不安を打ち消すために、極大の愛情を欲した。そして、自分が欲しいと思っている愛情をたたきつけることで、姉からも同じように打ち返してくれると勘違いしてしまった。……物ならぬ心の世界に『等価交換』は成り立たないのに。

客観的に見て、このＤＶ状況下で円華先輩が自ら解決に乗り出し、しかも弟くんを口約束だけで信用して、挙句単身家に戻ってしまったのは、随分軽率であるように見えます。
でも、きっと円華先輩は確信があったのでしょう。一時弟くんから離れ、夷月に居場所を、ぬくもりをもらったことで冷静になれたんだと思います。不安も、恐怖も抜きにして、冷静に弟くんの姿を見ると、彼の執着の本質は姉弟愛と依存心であって、性と暴力はそのための手段にしか過ぎず、いつも自分に甘えてくれていたあの頃となにも変わっていないということに、気づいたんだと思います。円華先輩自身も言っていますが、弟くんは、こんな風になってしまった今でも、ずっと一緒に生きてきた、かわいかったあの頃と、本質的に何も変わりはなかったのです。
……それが無意識にでもわかっていたからこそ、夷月に依存し切っていた頃でさえ、夷月が決定的に弟くんを打ちのめすことを許さなかったのだろうと思います。

恐怖というのは体にも刻まれるものです。頭では分かっていても、なかなか体は言うことをきいてくれません。
それでも、円華先輩は逃げずに、真正面から弟くんと向き合いました。
愛し愛されるということは、時に人を強くします。
弟くんを抱きしめる円華先輩の姿は、とても強く、凛々しく、優しく、綺麗でした。

あの、哀しいまでに卑屈な姿を知っているだけに、余計に。

ウソから出たマコト。
始まりからマコトである恋愛なんて存在しないと思いますが、しかし出てきてしまったマコトが、当人たち以外にとってはなはだ都合の悪い代物だったからさあ大変、あうーというお話ですね。
愛情が刃となって、周囲すべてを斬りつけていく恐怖。それも、この刃は身近な存在ほど、強く、深く切り裂くのです……。
恋愛の本質は「ままならねーですー（byみみ先輩(C†C)）」にあると思いますが、転がりだしたら当人達にも止められないという恐ろしさが、よく表現されていたと思います。

ちまりはちんまりでかわいらしいし、玲亜の健気な一面も感じ取れ、いいシナリオだと思ってたんですけど……。

なんで莉織・玲亜編でちまり、旅立たないんですかっ！
ふつーに残ってるんですかっ！

てっきりどっかで事情の説明があるものと思っていたのですが……。
最後までなんの説明もないような……。それとも見落としたかなあ。
洋行が不可避でないとすると、なんかこのシナリオの根本に関わるような気がするのは気のせいでしょうかー……。

ハートが４つで幸せの四葉のクローバー。
このお話、ちまりシナリオにしろ、円華先輩シナリオにしろ、誰かしら家を出て行っちゃいますから、莉織・玲亜・夷月・白兎の誰が欠けても、四葉にはならないんですよね。

白兎も夷月も、互いに正面から向き合うためには、莉織と玲亜の存在が必須だっただろうと思います。特にマザコン強がりさびしんぼう（ぉ）の夷月にとっては、真面目でひたむきで、どんなに拒絶してもいつも正面から包み込んでくれる、あたたかな莉織の存在は、とても大きな救いになったはずです。そして何よりお互いがパートナーのきょうだいのパートナー（ややこしい）であり、一つ屋根の下で暮らす家族の一員なのですから、白兎は夷月を、夷月は白兎の存在を絶対に無視することができないのです。

それは、特に無意識とはいえ、つらいことを全部白兎のせいにして逃げていた夷月にとって、どうしても必要なことでした。彼は白兎がうっとおしいから彼のほうを見なかったわけではない。見て、白兎の本当の姿に気づくわけには、思い出すわけにはいかなかった。だから、ずっと視界から外して、架空の白兎への憎悪を懐に抱き込んでいたのです。

しかし、こうなるとさすがの夷月も否応無しに白兎と関わらざるを得ない。元々白兎に非はないのですから、等身大の彼の姿をみている限り、憎しみを維持することは困難です。

白兎のほうも、それまでずっと一人で耐えて立ち向かって、いつしか折れてしまっていた心を再び奮い立たせることができたのは、玲亜がそばにいて、心をぶつけ合うことの大切さを思い出すことができたからだと思います。また、呼吸するように互いを想い合う莉織と玲亜の絆は、すでに忘却の彼方に霞んでいた、仲のいい兄弟であった頃の自分たちの姿を、再び思い出させてくれたはずです。

で、４章。
正直、４章の、特に白兎編の入れ替わり事件はいまひとつ理解できません。
玲亜が熱→とても行きたがっている。「白兎も楽しみにしてるのに」→莉織「よし、じゃあわたしがかわりにいこう」
……物凄い飛躍があるような。
それをなにやら久遠さんまで許容していそうなのも不思議です。（「久遠、玲亜のこと、頼んでもいい？」「構わないわ。上手くおやんなさい」）
だってすぐバレるし、そもそもそんなことしたって誰も喜ばないと思うんですけど。

実際、誰も喜ばず、事件になるわけです。
これによって、夷月はより強く白兎との絆を意識することができたわけですし、火のイメージがキーとなって、本当の記憶も思い出すことができたわけですから、結果オーライなんですけど。

まあ、そういう細かいところが気になってしまうくらいに、白兎編のラストは美しかったです。Ｗキスですもんねえ……。いきなりあそこだけ見せられたら多分僕引くと思うんですけど、それが自然に感じられるほど、白兎と玲亜、夷月と莉織、それから白兎と夷月の暖かな絆を実感していたということなのだと思います。
あと、玲亜のおかげで吹っ切れたのか、ともすれば弟にすら見えていた白兎が、立派にお兄さんしている姿も、印象的でした。白兎は諦めていたというより、きっと我慢していたんだろうなと思います。かわいい白兎のかっこいい姿が、ステキでした。

一方の夷月編。
白兎編が夷月と白兎の過去の清算のお話であったとするならば、こちらは莉織と玲亜、特に莉織の過去との対面がメインになります。

こちらも、空き巣騒ぎが長く続いている住宅街で、自動小銃やらなんやら、どう考えてもサイレンサーついてない音でぱらぱらいったり、窓やら扉やらぶち破る音がしてたりするのに、なんで誰も通報せんのだと思ったりもしたのですが、久遠もロベルトもかっこよかったし、今までどちらかというと勝手に荒れて暴力をふるうことの多かった夷月が、莉織たちを守るために身を投げ出す姿から、彼の成長を端的に感じられて、なんだかちょっと嬉しかったので、気にしないことにします（えー）。

それから、最後の選択肢。
莉織と同じ罪に手を染める選択が最善でなかったことが、ちょっと嬉しかったです。ほんとうに相手を思うなら、そんなことはできないはずですから。特に相手は、莉織なんだし。
　

そんなこんなで、４章、特に白兎編については、そのほかの部分がよかっただけに、いまいち不自然さが気になってしまったのですが。

……思うにこのお話は、３章までですでに出来上がっていたのだと思います。あと、必要だったのは、きっかけだけ。

多分、ギャングがこなくても、夷月が自棄にならなくても、不良が放火しなくても、きっといつかは、夷月と白兎と、莉織と玲亜。４人で自然に寄り添い、生きていく日がいずれやってきたに違いないのです。

そう、自然に信じることのできるこのお話は、やっぱりステキだったと思います。